【企業分析】靴業界のユニクロ? ABCマートの知られざる高利益体質に迫る!

ABCマートは誰もが知る靴の販売店です。実は、業界のNo.1企業であり、なぜそのポジションを勝ち得ているのかをご存じの方は少ないでしょう。端的にいえば、ABCマートは靴業界におけるユニクロです。非常に良く似たビジネスモデルを構築し、商品を他社に比べてより安く作り、非常に高い収益力を獲得しているのです。詳しく見ていきましょう。

 


https://www.abc-mart.co.jp/aboutus/gaiyo.html

飛びぬけて収益性が高い

まずはABCマートの損益構造を見てみましょう。驚くべきことに営業利益率は18%、法人税を控除した最終利益も12%という非常に高収益な企業です。この利益率がどれだけ高いか、業界No.2のチヨダと比較してみると、ABCマートは営業利益率16%に対し、チヨダは1%程度しかありません。

さらに、イオングループで売上高ベースで業界3位のジーフット、高いブランド力を有するリーガルの営業利益率も比較しても、ABCマートは群を抜いていることがよくわかります。

では、ABCマートはなぜこれだけ高収益なのでしょうか。理由は大きく分けて2つあります。まず1点は非常に高い商品力。そして、次に販売力の高さからくる販管費のコントロールです。それぞれ見ていきましょう。

「ユニクロ式のビジネスモデル」と「別注モデル」

高い商品力は、会計上では売上原価及び売上総利益に表れてきます。ABCマートとチヨダの両社が販売しているのは同じ靴にもかかわらず、同じ1万円の靴を販売しても、ABCマートは5300円利益が残る一方、チヨダは4800円しか残りません。このように、ABCマートは他企業と比べて非常に原価率が低く、商品を販売したときに得られる利益が大きいという特徴があります。なぜ、これほど原価率を下げることができるのか。それは、ユニクロとほぼ同一のビジネスモデルだからです。ABCマートの商品企画・開発の仕組みを見てみると、ABCマートは自社ブランドとグローバルブランドの二つの商品をメインで扱っています。


https://www.abc-mart.co.jp/ir/pdf/2019/1902_factbook.pdf

ABCマートは、自社ブランドを海外の協力工場と国内工場で生産しています。一つの企業で生産から販売までを一貫して担うモデルをSPAモデルといい、中間マージンを排除しコストカットを行うことができます。しかも、自社で生産を行っているので、顧客の声を素早く商品に反映させることも可能です。ABCマートは、企業の全体の売上のうち、約半分程度がこの自社ブランドの商品であるといわれています。


https://www.abc-mart.co.jp/ir/pdf/2019/1902_factbook.pdf

実はVANSなどもABCマートが商標権を獲得し、自社ブランドとして製造、販売しています。コストを徹底的に削り、いい商品を安く提供できるのがSPAモデルの大きな強みです。また、グローバルブランドは、ナイキやニューバランスなど、誰もが知る有名ブランドであり、靴を購入しようとするときにまず候補に挙がってくるものです。


https://www.nike.com/jp/

これらはブランド力が高く、売りやすいのは自明です。一方、ブランド側が強いため、結果として仕入れて販売する側の企業の利益が減少する傾向にあります。しかし、ABCマートは強力な販売力を背景とした大量仕入れ及び別注モデルという方法で回避しています。


https://www.abc-mart.co.jp/ir/pdf/2019/1902_factbook.pdf

大量に仕入れることによって、当然1品当たりの仕入れコストは下がってきます。また、別注のモデルを作ることによって、他の企業で同じ商品を売っていないという状況を作り出せます。


https://www.abc-mart.net/shop/r/r0541b/
(ABCマート限定のモデル)

この商品が欲しいと思っても、ABCマートにしか売っていないので、高い利益率を確保することができるのです。大量仕入れによりコストを下げ、SPAモデルにより中間コストを削減し、いい商品を低価格で顧客に届ける。このような仕組みはユニクロと全く同じです。ABCマートは、そこに加えてグローバルブランドは別注モデルも開発するという方法で、靴業界の中では異例の売上総利益率の高さを誇っているのです。

販管費のコントロールの源泉は高い販売力にあり

では次に販管費を見てみましょう。実はABCマートはこの部分も非常に優れています。ほかの企業の販管費率を時系列で見てみましょう。すると、ABCマートが過去10年、販管費率をしっかりとコントロールできているかが分かります。

他の企業は販管費率がどんどん上がり、収益を圧迫しているのに対し、ABCマートは徹底的なコントロールに成功しています。このように販管費の比率が二極化するのは、これらの企業が固定費型のビジネスモデルだからです。企業の販管費の大半は、人件費と店舗の賃料です。これらの費用は、“売上が上がっても、上がらなくても毎月出ていってしまう費用”であり、固定費と呼ばれます。

この比率を下げようとすると、固定費自体を削減するか、店舗や人材に効率的に働いてもらい、より多くの売上をあげてもらうしかありません。

では、ABCマートが固定費の比率を下げることができている理由はどちらなのでしょうか。ABCマートとそれ以外の企業の売上を見てみましょう。これによると、ABCマートは成長し続けているのに対し、他の企業は売上が減少傾向、よくて売上の維持に留まっています。

売上が継続的に成長しているのはABCマートのみという状況です。つまり、ABCマートが販管費のコントロールに成功している理由は、固定費への投資以上に売上を伸ばすことができる、高い販売力を有しているからなのです。いい商品を安く作り、固定費を上回る売上を上げるという、王道ともいえる方法によって、ABCマートは他社の追随を許さない驚異の収益力を手に入れています。

今後リスクにどのように対応していくのか?

さて、会計的なデータからABCマートの強みを見ていきました。これらの強みの源泉は、ABCマートの持つ高い販売力にあります。大量仕入れをすることができるのも、人件費や賃料などの固定費が利益を食いつぶさないのも、すべては高い販売力をベースに売上を上げることができているからです。しかし、販売が頭打ちになると、一気に利益が食いつぶされてしまいます。今後日本は人口が減少し、国内の消費量は頭打ちになるでしょう。このようなリスクに対して、ABCマートがどのような解決策を取っていくのかは非常に大きな注目点かと思います。


https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2019/fis/kiuchi/1129

その一つの解決策は海外への積極展開です。ABCマートは既に海外展開も行っていて、全体の売上の20%近くは韓国で売り上げています。しかし、韓国は日本と同様に高齢化社会に突入しつつあります。韓国も日本と同じ問題を抱えていると考えると、根本的な解決にはなりません。今後は韓国以外の海外展開が行われるのか。行われるとしたら、どこまでスムーズに展開することができるようになるのかが注目されるでしょう。

もう一点は通販事業です。店舗型のビジネスは、人が店舗に来なくなる状況に非常に弱い。これを解決する方法として、現在ECビジネスが大きく注目されています。靴はもともと通販には向かないとされていましたが、ZOZOMATなどのテクノロジーや、返品無料などのお試し期間を設定するといった方法によって、この問題は解決に向かいつつあります。

しかし、このECで利益を上げる為には、ノウハウが非常に重要な要素になります。特に物流のノウハウが非常です。この物流のノウハウも一朝一夕で手に入れられるものではなく、今後中長期的に開発していく必要があります。事業の多角化も考えられますが、販売先が日本である限り、根本的な解決にはならないでしょう。

このように、海外展開にしても、EC事業にしても、すぐにとりかかり、解決することができるようなものではないのです。非常に大きな成功を収めているがゆえに、今後待ち受けていそうな大きな問題に、ABCマートはどのように立ち向かっていくのでしょうか。注目したいと思います。