【企業分析】優良企業アダストリアが一転赤字に、そこから復活できたわけとは?


https://www.adastria.co.jp/

「20年来の異常事態」。グローバルワークやローリーズファームと言った名だたる人気ブランドを擁するアダストリアの福田三千男会長兼社長がそう自社の決算で評したのは、2018年の夏のことでした。

アパレル業界は売上を重視するため新規出店が過剰化し、その結果、売上は伸びたものの、在庫が余り、値引きセールを行って粗利が減少、加えて新規出店をし続けるために固定費が増加し、利益が大幅に減少するという悪循環していました。アダストリアもご多分に漏れず、2018年の3~8月の合計決算では赤字を計上しています。

アダストリアはそれから1年間、劇的な改革を断行しました。そしてその改革後、結果が出るのが今期の決算でした。アダストリアは、劇的に利益を伸ばすことに成功しています。今回は、その改革によって財務数値がどのように変化していったのかを見ていきましょう。

・アダストリアが抱えていた問題点は大きく分けて2つ


https://www.adastria.co.jp/pdf/?id=b00000037

アダストリアの改革は、大きく分けると「顧客に求められる商品を作る」こと、そして「不採算店舗を削減する」の2つに大別されます。2018年の上半期決算発表でも、上記の反省が社内で共有されています。最も大きな問題は、顧客ニーズを吸い上げることに失敗した点です。生の顧客の声を吸い上げることができなければ、データなどの販売動向から商品開発を行います。しかし、販売動向は大手企業であれば似たようなデータを収集でき、結果似たような商品を作ることになります。すると当然、最大の差別化要因は「値段」になりますので、やがて各社売り抜けるために価格競争のセール合戦になり、粗利が減ってコストが増えていきます。

また、不採算店舗が増えていくと、売れ筋商品を持っていたとしてもコストが増加します。販売機会ロスという問題です。

売上を重視すると、立地が多少悪くても店舗を出店します。立地が悪いので集客が見込めないような状態であっても、店舗がある以上、洋服を陳列しておく必要があります。結果、仮にその商品が人気商品であっても、客が来ないため捌き切れず、固定費だけが発生するという事態になります。

顧客の声を吸い上げないまま、売上を重視して新規出店を継続していった結果、優良ブランドを多数保有していたアダストリアであっても、不良在庫と不採算店舗という利益を食いつぶす要因が2つも発生していたのです。そして、アダストリアが取った改革は、この2つの問題に真っ向から向き合い、改善していくことでした。

・顧客の求める商品を作るための最善の方法とは?


https://clip-mintsuku.dot-st.com/

アダストリアが顧客の声を聞くために取った、具体的事例を見てみましょう。例えば、同社のブランドの一つである「studio CLIP」の顧客と一緒に商品を作るプロジェクト「みんなでつくる HELLO! iDEA HELLO! New basic」です。

こちらは、studio CLIPのオンラインショップ会員の中でも優良な顧客を対象にアンケートや座談会を実施、顧客の声を直接聞く努力を行っています。企業内だけでは気が付くことのできない顧客の声を商品に反映させた結果、第一弾の商品はWEB先行販売の初日でほぼ完売、店頭販売においても異例のスピードで完売しています。


https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000010183.html

また、直接顧客に聞くだけではなく、企業内の顧客に最も近い存在である販売スタッフからも情報を収集しています。アダストリアは、商品を販売する前に店舗のスタッフに評価を実施、その結果を踏まえて仕入数量を決める取り組みがなされています。

今期の決算の頭から開始されたこの取り組みでは、「LOWRYS FARM」の主力商品の9パターンのバリエーションの中から、販売スタッフが最も「売れそう」と予測した柄を当初よりも多く生産したところ、一度も値下げする事なくSSシーズンのブランドカテゴリで1位になったそうです。

こうなると、商品はプロパーでも購入される確率が劇的に上がり、結果的にコストダウンを達成することができるようになるのです。顧客に求められる商品を作るというのは、このような良循環を産み出す起点になりうるという事を、今回のアダストリアは改めて証明してくれたのではないでしょうか。

・不採算店舗の撤退も順調に推移

次に、不採算店舗の撤退も順調に進みました。2019年2月期から2020年2月期の1年間は、出店の倍近くの店舗を退店。

不採算の店舗の閉鎖は、固定費の削減効果がある上に、その店舗の商品を他の人気店に回すことも可能です。人気商品は確実に売り切ることができ、販売期間のロスを最小化できるようになります。

この効果は大きく、会計データを見ても、店舗が少なくなったので全体での売上は減少しているものの、1店舗当たりの売上、従業員一人当たりの売上は共に増加しています。つまり、不採算店舗の撤退によって、より効率的な経営を行う事が可能になったのです。では、このような改革を断行した結果、今期のアダストリアの業績はどうなったのかを見てみましょう。

・業績は改善され、営業利益がほぼ倍に

まずは利益から見てみましょう。今年のアダストリアの営業利益(事業運営で得た利益)は、昨年の利益と比べて約2倍増加しました。先ほど確認したように、不採算店舗の撤退を行うと売上は減ります。実際、アダストリアの売上を見ると、売上はここ3年間の中で最も少ない額です。

 

しかし、その売上減少のインパクト以上に、商品が効率的に売れていること、不採算の店舗の賃料も削減による固定費の削減のインパクトが大きいのです。

いい商品を提供することによるコストカットで36億円、不採算店舗の撤退によるコストカットで5億円と、合計で40億円以上のコストカットに成功しています。この二つのコストカットが、今期の利益増加の要因の大部分を占めます。アダストリアの2つの改革は、利益の倍増という形で結果になって返ってきたのです。

また、在庫や不採算店舗の撤退は企業のBSにも表れてきます。アダストリアのBSを前年と今年で比較すると、在庫と、店舗の敷金が減り、その分現預金が増えています。

効率的な経営の結果、アダストリアは新規投資も行いつつ、保有する現預金も増やすという、非常に理想的な経営を行うことができたのです。顧客の声を丁寧に拾い上げた結果、求められる商品を提供できるようになり、結果業績が伸びるという、非常にいい好循環をアダストリアは作り出すことができました。

・今後も顧客の声を聞き商品開発に活かすことができるか?


https://www.adastria.co.jp/pdf/?id=b00000045

アダストリアが今期更に業績を伸ばすことができた要因について見ていきましたが、いかがだったでしょうか。自社ECの会員も多く、決算発表からも、このデータを有効活用していこうという積極的な姿勢がうかがえます。顧客の生の声や最も近い販売スタッフ、さらに自社ECから得られる顧客データからより顧客の求めるモノを提供していこうという姿勢は、今後も継続して業績が伸びるのではないかと思わせてくれます。

顧客の声を聞いて商品づくりに反映させるというのは、口にすることは簡単ですが、実践は非常に難しい。しかし、だからこそこのように確実に実践し、結果を出している企業は競争優位性を築けると思います。もちろん業績自体は短期的に見ればいい時も悪い時もあるでしょうが、アダストリアは長期的には成長し続ける企業であると期待して、今後も注目し続けたいと思います。