「オールデン」カーフのVチップを7000字本気レビュー!

オールデンとは

オールデンは1884年に設立されたアメリカのシューズメーカー。無骨なデザインとはき心地のよさ、また希少素材である「コードバン」の人気で一躍ブームになりました。

しかし「発注してから納品まで数年単位で待たされる」というなんともアメリカらしい気質と、コードバンの世界的な供給不足により流通数が追いつかないまま、現在は一時の人気は落ちついたという印象です。

コードバンのオールデンを紹介した記事はこちら↓

オールデンは一生履ける名作革靴!プレーントゥモディファイドラスト♯53501をレビュー

2017.08.04

さて今回ご紹介するのはコードバンの靴ではなく、カーフと呼ばれる、いわゆる普通の革靴と同じ牛の革を使用した靴です。対するコードバンは馬の革です。カーフとコードバンの違いは、見ためのツヤ、シワの入り方、水への耐性、手入れ方法など様々あります。そういった違いにも注目してご紹介していきます。

細部紹介

それでは順番に各所を見ていきましょう。

まずは上から見たところ。指の付け根部分がかなり広くなっているのがわかりますでしょうか。お手持ちのスーツ用の革靴と見比べていただければわかりますが、この「先に向かって一度広がっている」形は非常に珍しいものなのです。それはこの靴の出自によるものなのですが、その説明は後ほど。

いわゆる「外羽根」と呼ばれる、靴ひもを通しているパーツが外側に縫い付けられているデザイン。靴ひもを締めたりゆるめたり、調節がしやすく靴としては履きやすいですが、内羽根の靴と比べてフォーマル度は下がります。

(左が外羽根、右が内羽根)

http://ur0.pw/HpT6

そして最大の特徴である、「Vチップ」と呼ばれるつま先。革の縫い合わせがデザインになっています。この縦の縫い目がないものを「Uチップ」と呼びますが、Uチップの場合は縫い目が丸くとられています。こちらはご覧のとおり先端が少しとがっていますね。

ゆえに「V」チップと呼ばれています。ちなみにアメリカ名では「アルゴンキン オックスフォード」と言います。アルゴンキンがVチップ、オックスフォードは外羽根の靴を指します。やはりVチップという名前の方が直感的にしっくりきますね。アルゴンキンではここまで流行らなかったかもしれません。

つま先のアップ。よく見るとけっこう仕事は粗いなぁと感じます。

左右並べてみたところです。左足の縫い目が先端からちょっとズレているのがわかりますでしょうか?オールデンはアメリカの靴、アメリカ人らしく細かく丁寧な仕事はされていないのがオールデン。そういった無骨さ、個体差を楽しむのもオールデン……。

とはいえ改めて見るとずいぶんズレてますねぇ。しかし何せ出荷数が少ないのがオールデン、購入するときに「ズレてるな……」と気づいても、じゃあ代わりのものを下さいと言っても無いのです。この靴もラスト1点でした。

つま先のデザインは、あればあるほどカジュアルになります。余談ですが、では何もデザインがないのがフォーマル?と思われるかもしれませんが、つま先にデザインがない「プレーントゥ」より、横に1本縫い目が入った「ストレートチップ」の内羽根のもの、が一般的にはどの場面でも使えるフォーマルな靴とされています。

このVチップはご覧のとおりデザインとしてのステッチ(縫い目)が入っていますので、よりカジュアル。しかし日本のビジネスシーンで使えないというほどではありません。私もよくスーツに合わせて出張に使っています。フォーマルうんぬんは別にして、Vチップは非常に魅力的なデザインだと思います。

ゆったりしたつま先のフォルムに沿うようなステッチ。これを真似した靴も見たことがありますが、やはり本物の魅力には及びません。後述するこの靴の木型、「モディファイドラスト」で最初に作られたのがこのVチップとのこと。相性ピッタリなのも納得です。

次はヒール(かかと)です。なんとも不思議な形をしていますね。内側が高い、ナナメの履き口になっています。これはこのモディファイドラストという木型がハンディキャッパー、つまり足に障害のある人向けに作られたことに起因します。足を入れやすく、負担の少ない形状を研究した結果のデザインです。

横から見ると、カカトを包み込むように丸く形作られているのがわかりますでしょうか。日本でよく売られている、2~3万円までの靴はここがストンと真っすぐになっていることが多いです。室内では靴を脱ぐ文化の日本では、靴はジャストフィッティングより脱ぎ履きのしやすさを重視する人の方が多いんですね。

靴ひもをゆるめずに脱いだり、下手すると靴ベラも使わずに履けるくらいユルユルなサイズの人もよく見かけます。それに対してある程度の価格以上のきちんとした靴では、このようにカカトを包むような形に作られているものが出てきます。この形を作るのには技術も手間もかかりますので。

まあ実はこれがアキレス腱のところに食い込んで痛くなったり、必ずしも履きやすいというわけではないのですけどね。見ためには、履いたときにカカトに沿う美しいフォルムとなります。

そして、普通の靴ではこのように内側について語ることは少ないと思いますが、このモディファイドラストについてはここがとても重要です。土踏まずの部分が高くなっています。これが足をしっかりサポートしてくれます。

このアングルから見ると、外側が低く内側が高くなっていること、またカカトからつま先にかけて「くの字」のようにカーブしていることがわかります。これらは全てデザイン優先ではなく、足の理想的な形に忠実に合わせて作ったら結果的にこうなった、というものです。まさに機能美ですね。

靴底もまた極端な形をしています。土踏まず部分のえぐれ、くの字の形状がよくわかります。また、ヒールが斜めにカットされています。これも土踏まずをきちんと支えるための形状です。

「フットバランスヒール」という名前のものです。これはオールデンのモディファイドラスト専用のもの。こんな独特な形ですから、そりゃそうですよね。独特すぎて「ヒールが減ったから交換したいけど、一般品で合うものがない!」ということが起こります。

ちょっと薄くなっていますが、「ANATOMICA BY Alden」と書かれています。アナトミカというショップがオールデンに別注したものですよ、という証です。また内張りの革が通常のオールデンはもう少し濃い色をしていますが、別注品はこのようにクリーム色です。

カーフという素材、コードバンと比べて

次に素材を見ていきます。靴というものを評価するとき、やはり素材はとても重要な要素です。見ため、耐久性、履き心地、手入れなどあらゆる部分にかかわってきます。

このオールデンVチップの素材はカーフ。ネバダカーフ、と名前がついていたりしますが、アメリカのネバダ州産の革、というわけではないようで、あまり気にするところではないようです。カーフというのは生後6カ月以内の仔牛の革をなめしたもの。

もう少し成長した牛の革はキップ。他にもカウやステアなど、牛の年齢やオスメスでそれぞれ名前があります。カーフは最も幼く高級な革。そのぶん革は薄く、キメが細かいのですが……。どうも海外ではカーフの範疇が広いのか、この革は本当にカーフ?と感じます。

日本製のカーフの靴を見たことがありますが、もっともっとうすく、シワが細かく、繊細で頼りないほどの印象でした。それに比べるとこのオールデンはしっかりと厚みのある革で、キメもそこまで細かくはありません。日本でいうとキップ(生後6カ月~2年)くらいなのかなぁ?と感じます。

革質は「素晴らしい!」というほどではないです。正直なところ。もちろん良い革ではありますし、耐久性もあり、手入れすることでどんどん良いツヤになっていく魅力的なものです。

ですがやはり「値段のわりには……」という感は否めませんね。カーフのオールデンは実用性重視、ツヤやエイジングを楽しみたければコードバンを選べ、というところでしょうか。

※先ほどもご紹介したコードバンのオールデンの記事の写真と比べてみてください↓

オールデンは一生履ける名作革靴!プレーントゥモディファイドラスト♯53501をレビュー

2017.08.04

同じ黒でもツヤが全く違いますね。コードバンの特徴として、きちんと手入れされていれば「全体がピカピカになる」ことがあげられます。カーフでもクリームで手入れすればある程度「ツヤツヤ」にはなりますが、コードバンのように「ピカピカ」にするには、ワックスで鏡面磨きをする必要があります。

そしてワックスはクリームのようになじませるものではなく、あくまでお化粧、フタをするものですから、靴が曲がる部分には割れてしまうので塗ることができません。また通気性も悪くなるので、全体にはワックスは塗らず、つま先と、せいぜいカカトにだけ鏡面磨きをほどこすのが普通です。

対してコードバンは屈曲部ですらピカピカにすることができます(少し技術が必要ですが)。これが見ための大きな違いを生んでいます。

もうひとつ大きな違いが「シワの入り方」。オールデンだけでなく、普通の革靴はこのようなシワの入り方をします。曲げられた部分に「寄って」できたシワです。対してコードバンはこのような「寄りジワ」ができません。パキッと曲げられたような「折りジワ」になります。

これはコードバンの繊維が横方向ではなく縦方向になっているから。詳しい説明はここでは省きますが、この「繊維が縦方向」であることによって、コードバンは水に非常に弱いとされます。水が繊維のスキマに入りこんでしまうのです。そして水シミになってしまい、またキレイにするのに一苦労……となります。

その点カーフのこの靴は大丈夫。事前の防水ケアと手入れは必要ですが、雨の日でも私はかまわず履きますし、きちんと水をはじいてくれます。ちょっと水シミになっても、少しのケアでキレイになります。おおげさなようですが、筆者は北海道に住んでおり、雪の中でもこの靴を履いています。

雪というものの厄介な点は、靴の上に雪が乗ったまま室内に入ると、とけて水になり、靴にダメージを与え続けることです。そんな環境でもこの靴は大きなダメージもなくがんばってくれています。写真では少しケア不足で乾燥した状態になっていますけどね。

1つ注意するべきは、靴底がもともとはレザーソール、つまり革でできているという点です。レザーソールは見ための高級感と通気性に優れる点、歩いたときのコツコツという独特の音などとても魅力的なものなのですが、さすがに雪の上では滑ってまともに歩けません。

そこで私はこのようにハーフラバーという、前半分にゴムを貼って使っています。雪でも滑りにくいものです。フットバランスヒールはゴム製なのでそのまま。

「ハーフラバーを貼るのはカッコ悪いので嫌だ」という人もたまにいますが、どうでしょう? 横から見てもさほど気にならないですよね。さすがに足の裏を見ればわかりますけれども。私は実用性重視で、ラバーを貼る派です。

ハーフラバーを貼ってもらうとき、「雪でも滑らないもので」と注文すると、修理屋の職人さんには「こんな高級な靴を冬に履くなんて!」と言われました。でも私はそうは思いません。きちんと手入れすればなんの支障もないですし、またそれに耐えうる性能のある靴です。

コードバンのオールデンなら飾っておくだけでも価値があるかもしれませんが、カーフのオールデンは実用性重視、ガンガン履いてこそその真価が発揮されます。「素材」という点において、出張でも日常使いでも「相棒」たりうる信頼感がこの靴にはあります。

モディファイドラストとアナトミカのフィッティングについて

(内側から見ると土踏まずのえぐれがわかりますね)

先ほど少しふれたこの「モディファイドラスト」。ラストとは靴の木型のことで、この型に沿って靴が作られます。もともとはO脚やX脚といった、足に抱えた問題を改善するという目的で作られたものです。指の部分が広くとられ、土踏まずをサポートするように高く盛られた型。

なんとなく外反母趾や偏平足に効果がありそうですが、どうやら元の設計思想はちょっと違うようで、欧米人にはむしろ土踏まずが高すぎる人がおり、それが原因で歩行に障害が出る状態を改善する目的なんだそうです。

このように特殊な背景をもつモディファイドラスト、想像どおり履きごこちはかなり独特なものです。そして履きごこちを語る前にはフィッティング、つまりサイズ選びの話を避けて通れませんので、先にその話をさせていただこうと思います。

今回のオールデンVチップは、「アナトミカ」というショップの別注品です。アナトミカとは、ピエールフルニエさんと寺本欣児さんが立ち上げたショップ。流行に流されない、独特の雰囲気とフィッティングを提案しています。ここのショップは靴のフィッティング(サイズ合わせ)も独特であることで有名です。

「ブランノックデバイス」という、足のサイズを測る機械でサイズをみてくれます。この計測器自体はレッドウイングなどを扱う店にも置いてある、特別珍しいものではありません。普通のお店では足の「カカトからつま先まで」の長さを測りますよね?でもアナトミカは違いました。

「カカトから土踏まずの中心まで」の長さを測るんです。そして「あなたのサイズはこれ」と教えてくれました。これには驚きました。足長、つまり足そのものの長さは測らないんですよ。

これが何を意味するかというと、大事なのは「いかに土踏まずを靴にフィットさせるか」、それだけを見ているということなんですね。私も素直にそのフィッティングに従い、最も土踏まずの具合の良いものを選んだ結果、サイズは「8.5インチ」と言われました。

他のオールデンでは7.5もしくは7でも入るものもあったので、またまたビックリ。靴のサイズで1インチは約1㎝変わってきます。当時の私は「革靴はジャストサイズこそがベスト」と信じていましたので、1㎝も大きいサイズなんて「スニーカーじゃあるまいし……」と思いました。スニーカーは靴自体が柔軟なので、形よく見せるために大きめサイズを選ぶことはよくありますね。

そして実際に8.5インチを履いてみた感想は「なんか見た感じはデカイけど……不思議と足には馴染んでいる気がする……」でした。早くこの靴で歩いてみたい!と思いましたね。余談ですが、革靴を試着させてもらったときには、甲にシワをつけないようにするのがマナーです。

「履きシワ」はその人独特のものであり、一度つけてしまうと明らかに跡が残ります。「新品のはずなのに、もうシワがついている?」。できればそういう靴ではなく、まっさらなキレイな靴を買いたいですよね。試着品だって商品です。大事に履かせてもらうのが紳士のたしなみというものです。

つまり私はその場ではペタペタとペンギンのように甲を曲げずに歩いてみただけで、歩きまわったりはしていません。「このサイズでちゃんと歩けるのか? 脱げたりしない?」という不安はありましたし、アナトミカの別注ということでの約10万円という価格。

通常であればコードバンのモデルが買えてしまいます。かなりの時間、お店で迷いに迷ってついに購入したことを覚えています。モディファイドラスト、しかもアナトミカのフィッティングだと、通常では靴に接することのない「土踏まず」がピッタリと靴底につきます。

そう、先ほどの「えぐれ」の部分です。これが特殊な履きごこちを生む最も大きな理由です。靴が上下から土踏まずの部分を「はさんで」くることになります。そうすると何が起きるのか? 指の部分の広さもあいまって、指先は靴に当たらないほぼフリーの状態になります。

歩いてみると、土踏まずをはさむようにフィットした履き心地は少し不思議な感じはありますが、違和感や歩きにくいといったことは全くありませんでした。土踏まずがサポートされていることの安心感、下から突き上げられるような躍動感、指が靴に当たって痛くなることのない開放感。

子供のころは偏平足ぎみだった私は、最初はちょっと土踏まずが痛かったのですが、慣れてしまうともうこの履きごこちの虜となってしまいました。革靴でここまで歩きやすいものは他になく、これ以外の靴で出張に行くのがためらわれるほどです。

購入時の価格で9万円(+税)。高い買いものではありましたが、十分にその価値を発揮してくれています。オールデンといえばコードバン?たしかに代えがたい魅力がありますが、本当に使える靴、一生モノの「相棒」と呼べる靴が欲しい方は、ぜひ一度足を通されてみてはいかがでしょう。

三十路

この記事を書いた人

三十路

体重69kg 足の実寸25.5cm 頭囲60cm

37歳、2児の父。 体型に恵まれなくても、仕事や育児に忙しくても、いっしょに「おしゃれでカッコいいパパ」を目指しましょう!