【企業分析】バーバリーを失った三陽商会に復活の目はあるか?

2015年、バーバリーは40年近く続いた三陽商会とのライセンス契約を解除し、日本で独自展開することを決定しました。三陽商会は、契約解除以降、最終決算では赤字が続いています。そのため、バーバリー以前・以後で語られることが多い三陽商会。それもそのはず、財務諸表を見てみると、営業利益の推移はバーバリー以前・以後で大幅な赤字に転落するなど雲泥の差があります。

しかし、ここ数年少しずつではありますが、赤字幅が減っているように見えます。今回は「三陽商会は今期において黒字化するのか?」という視点で分析していきます。結論としては、「今期の黒字化は厳しそうだが、改革案を実行し続けていると、黒字に転換することは可能なのではないか」と判断しました。

三陽商会の業績を確認

では、三陽商会の現時点(2019年第2期)での業績を確認してみましょう。

2019年1月~6月までの半年の決算は、売上が297億円。前年同期に比べて増加しています。棚卸資産評価損の時期ズレとの説明がありますが、恐らく値下げなどの影響も大きいでしょう。売上が伸びているものの、売上総利益が減少しています。

売上総利益とは、「商品そのものからどれだけ利益を獲得できたのか?」を見るための指標です。事業を運営していると商品の仕入れ代以外にも事業運営のための経費、賃借料、人件費などいろいろな費用が掛かりますが、売上総利益で認識する費用は、「服を仕入れるため、もしくは製造するためにかかった費用」のみとなります。

売上総利益からは、「洋服そのものからはどれだけ利益が取れているのか?」がわかります。売上が増加してこの売上総利益が下がっているということは、本質的な話で言うと、売値が高すぎて、プロパーの値段では顧客に販売できなかったということを示します。この三陽商会の売上の増加も、手放しで喜べるものではない可能性があります。

次に販管費と営業利益です。販管費とは、先ほどの商品を売るために必要な経費全般が入ってきます。洋服を販売する際に、店舗販売なのであれば店舗の費用や販売のための人件費が必要です。そのほかのさまざまな経費も必要でしょう。それらの費用をすべて引いて、「アパレルという事業で、どれだけの利益が残ったのか?」を見るための利益が営業利益です。

今期の決算で言うと、人件費や賃料を削減した結果、事業運営費用である販管費は減少しているものの、売上総利益の減少が響いて、営業利益は昨年より少なくなってしまったという結果になります。グラフで見ると下記のとおり。販管費が減少しているとは言っても、売上総利益より多額なので営業利益が赤字になっています。

三陽商会は店舗の撤退・縮小を2016年から進め、人件費と賃料はまだ減少していくかもしれません。不採算部門の撤退は、売上が減少するリスクがあるものの、その分の運営コストが少なくなること、商品が売れなかった場合の商品の移動の賃料や、販売促進のための値引きを抑制することができるため、売上総利益や営業利益が黒字化する効果が期待できます。

しかし、三陽商会においては、その不採算部門の撤退がまだまだ道半ばであるのか、2017年、2018年と売上総利益、営業利益ともにほぼ横ばいという状況が続いています。

そして、今半期分の決算を見ても、この傾向は大きくは変わらず、営業利益が赤字の状態は継続したままとなっています。

三陽商会は4半期決算の内1期目が1月~3月、2期目が4~6月、3期目が7~9月、4期目が10~12月(今期より決算期が変更され2月締めになります)なので、3期目が暑い夏であり、4期目が消費税増税後であることを考えると、赤字決算である可能性は高でしょう。今期の通期での黒字化は依然かなり厳しいと想定できます。

今後の三陽商会の戦略はブランディングの強化とデジタル化

さて、上記のような状況を考慮すると、三陽商会が今期に急激に業績を回復させて黒字化する事は非常に難しいことがわかります。しかし、手をこまねいているわけではなく、以前から重要戦略として大きく分けて二つの取り組みを行っています。ブランディングとデジタル化の強化です。

プレミアムブランド化というのは、三陽商会が独自でつくっているオリジナルブランド(EPOCAやSANYO COATなど)をブランディングしていくことです。ブランディングとは、そのブランドの世界観等々を伝えて、顧客にそのブランドに愛着を抱いてもらうようにする施策を指します。

この施策はファッショにおいて必須です。とくに三陽商会の商品の販売チャネルは百貨店・路面店・その他(アウトレットや卸売)などに分けられますが、依然としてその中心は百貨店販売です。

百貨店での売上が中心であれば、その潜在的なライバルは必然的にバーバリーなどのハイブランドや、高価格帯のブランドになってきます。

特にハイブランドはブランディングを磨き続けており、購入した顧客に一種の高揚感を抱かせます。そのような高揚感は、商品が高品質なだけでは足りず、継続的な広告宣伝費を必要とします。三陽商会は2015年以降販管費の削減と共に広告宣伝費も削っていましたが、前期である2018年においては再び広告宣伝費を投下していく選択を行っています。

そして、客単価と来場者数の開示がないため、一概には言えないものの、三陽商会の前年比の販売実績を見る限り、一定の効果は上がっています。9月は増税の駆け込み需要の影響も大きいと思われますが。


https://www.sanyo-shokai.co.jp/company/ir/monthly-2019.html#archive-201909

このような広告宣伝・ブランディングは今後も継続し続けていく必要があるでしょう。次にデジタル化の強化です。

こちらは、商品の企画から仕入れ、物流、販売に至るまでのバリューチェーンにおいてデジタル化を推進していこうとするもの。

代表店舗にはフロア内にカメラを設置し、動線やリピートの顧客分析などを実施し、レイアウトやVMD、販促の精度向上につなげようとする顧客の購買行動の可視化は面白い取り組みです。

どんなに企業が大きくなっても、アパレルの販売の最小単位は「お客様がその服を気に入り、購入する」という行動。自分たちの顧客がどのように商品を検討し、どのように店内を見て回って購入に至るのかを理解することは大きな意味があると思います。

バーバリーを失い、それによって大きな利益を失った三陽商会ですが、このようにデータを用いて、改めて顧客にリーチするための戦略をとろうとしているように見えます。

トップラインである売上や売上総利益、営業利益を今期大幅に改善することは難しいでしょうが、このような取り組みを丁寧にやり続けていくと、近いうちに黒字化は充分に狙えるのではないかと思います。必要な事をやり続けている三陽商会。復活して力強い体質に生まれ変わることは可能だと思います。不採算部門の撤退を続け、ブランディングとデジタル化を継続していると、どこかで黒字に転じる場面は起こるように思います。少し長期的な目線が必要かもしれませんが、今後の三陽商会の行く末に注目したいと思います。

※業績に関わるデータやスライドは

(https://www.sanyo-shokai.co.jp/company/ir/statement.html)(https://www.sanyo-shokai.co.jp/company/ir/report.html)を参照しています。