【企業分析】苦境が続く日本のアパレル「オンワード樫山」に打つ手なし?

 

今回は、オンワードについて見ていきましょう。オンワードは日本のアパレル企業の中でも「ラグジュアリー」と呼ばれる高価格帯の商品を取り扱う企業です。DAKS、Jil Sandsar、Calvin Kleinなどもオンワードが保有しています。オリジナルブランドには23区、五大陸などがあります。


http://store.jilsander.com/jp/%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BA

特にジルサンダーは近年デザイナーが変わり、かなり人気が高くなっているようですが、その親会社であるオンワードはどのような業績になっているのでしょうか。

オンワードの近況をチェック

オンワードの市場はラグジュアリーという高単価な業界。市場は世界に広がっていますが、オンワードの商圏はどこなのでしょうか。

78%が国内、22%が海外で、海外は欧州を中心に、米国、そしてアジアとなっています。では次に、どのような販売チャネルで販売しているのかを見ていきましょう。

直近2019年決算時点でのオンワードの販売チャネルは66%が百貨店、次いで14%がECで、この2つで全体の80%を占めます。ラグジュアリー業界であるため、主な販売のチャネルは高価格帯の商品を求めて来店する可能性が高い百貨店です。次にオンワードの顧客に関して確認していきましょう。オンワードは顧客情報やターゲット層を明確に開示しているわけではありませんが、売上高をメンズ、ウィメンズなどに分けて開示しているのでそれで代用していきます。

圧倒的に婦人服が多いですね。オンワードのメインの顧客は、「百貨店に買い物に来るような女性客」になっているようです。では、この百貨店に来る顧客は近年変化しているのかもつかんでおきましょう。

https://www.j-front-retailing.com/ir/library/presentation/20190411_jfr_ja_dl_01.pdf

上記は大丸などを運営するJ.FRONT RETAILINGの決算説明書。これによると、2014年からインバウンドの来客数と売上高が安定して増加していっています。他方で、1店舗当たりの来場者数は2014年から来場者数はあまり増加していません。

このことから、少なくとも大丸は「インバウンドの顧客(海外の顧客)が増加し、国内の顧客は減少傾向にあるのではないか?」というような状況になっています。ラグジュアリー業界の海外の顧客行動は、近年大きく変化しています。Farfetchの開示データによると、現在はミレニアル世代(1980~1994年までに生まれた世代)とジェネレーションZ(1995~2009年までに生まれた世代)が高級ファッションの成長の約85%を占めており、2025年までには高級ファッション全体の45%を占めています。


https://d18rn0p25nwr6d.cloudfront.net/CIK-0001740915/a462a8b5-b31c-49d9-a2ac-bbb229e0f278.pdf

この層はスマホがあるのが当たり前ですので、商品を確認するためには、通常の販売ルートに加え、まずはネットで情報収集を行います。この点は今までの顧客の購買動向と大きく違う所なのではないでしょうか。オンワードも、恐らくこのような顧客層の変化に対応していかなくてはなりません。

オンワードの販売戦略は百貨店

さて、オンワードの商圏となっている日本のラグジュアリー業界の顧客の推移などを見ていきました。これに対し、オンワードの今までの戦略はどのようなものだったのでしょうか。


https://www.onward-hd.co.jp/ir/docs/20160411_2.pdf

2016年時点の中長期経営計画を確認すると、「生産背景を活かした高付加価値な洋服の提供」「百貨店を中心とする店舗のサービスの充実」などがあげられています。


https://senken.co.jp/posts/byersprize2018-best-seller

とくに百貨店は、全国百貨店バイヤーズ賞の平成賞を受賞しており、良好な関係を築くことに成功しています。さて、このような背景と戦略の結果、オンワードの業績などのように推移したのでしょうか。確認していきたいと思います。

オンワードの業績を確認

まずオンワードの売上高の推移を見ていきましょう。開示されている数字によると、オンワードの売上高は減少傾向にあります。この売上高の減少要因を確認するために、オンワードの売上を細かく分解していきます。

先ほど確認したように、オンワードの主要な販売経路は百貨店だったのですが、この百貨店の売上が年々減少傾向にあります。では、この百貨店の販売の減少要因を確認していきます。オンワードの売上は店舗がメインである為、売上は「店舗数×一店舗当たりの売上」に分解することができます。

このグラフによると、オンワードは店舗数が年々減少していっているものの、1店舗当たりの売上の効率は年々改善していっています。どうやらオンワードの売上の減少は、店舗数の減少が原因のようですね。では、なぜ1店舗当たりの売上高は改善していっているのでしょうか。開示されている数字を分析してみると、一店舗当たりの㎡数が上昇していっています。

つまり、オンワードは店舗面積の狭い店舗を閉鎖することにより、1店舗当たりの効率性を改善していっているということが分かります。

1店舗単位で見ると改善傾向にあるが、中長期経営計画とは乖離してしまっている。

店舗の閉鎖に伴い、店舗面積が大きい店舗が残り、1店舗当たりの売上高は増加傾向にあります。これは良い傾向だと思います。しかし、2016年の中長期経営計画を見てみると、2019年には増収増益を果たす計画でした。オンワードは店舗の効率化を進めていく中で、中期経営計画との乖離が生じてしまっていました。

オンワードは2016年時点では、2019年までに再建は終えて、再び成長サイクルに乗っていると考えていたのでしょうか。では、どのようにその成長サイクルに載せる予定であったのかを確認してみましょう。

これは2016年時点のオンワードの売上計画。売上の計画を達成するために、国内の「リアル等」(店舗のことだと思われます)以外の売上高すべてを増額する計画となっています。この計画と実績の差異を比べてみましょう。

青色が2016年、黒色が2019年のオンワードの計画、緑色が2019年の実績値です。これによると、オンワードは国内リアル等以外ですべて売上高は増加させているものの、すべての部分の売上で計画に届いていないことが分かります。つまり、2016年からのオンワードの中期経営計画は、目標すべてが未達になってしまっていることが分かります。

効果的な戦略を取っていたのかの測定が難しい

ではどのような施策が失敗していたかが分かるのかというと、この分析が困難です。国内の店舗は先ほど確認したようにインバウンドが非常に増えているため、インバウンドに向けた重点的な施策を行うべきでしょうし、海外売上を伸ばしていくのであればミレニアル世代の購買動向にフィットした施策が求められます。また、ECを強化していくのであれば、顧客を誘導し、購買を促進する為に販売促進費用を掛ける必要があるでしょう。

https://www.onward-hd.co.jp/ir/docs/20160411_2.pdf

しかし、2016年時点では、インバウンド消費などに対してフラッグシップによる「質の高いおもてなし」で顧客を拡大していくとしており、具体的な施策がどのようなものかを把握することはできませんでした。また、ECに誘導するために販促費が上昇していたり、SNSに力を入れているのかな?と思い確認してみたところ、そのようなアクションもはっきりと確認することができませんでした。


https://www.instagram.com/onward_pressroom/

日本有数の非常に大きな企業ですので、何か別の意図をもって施策を行っているのだとは思いますが、具体的に取り組みに対する成果を確認することが難しいなと少し感じました。

2019年からの中長期経営計画は?

さて、このような状況の中、オンワードは2019年からの中長期経営計画を発表しています。これによると、3期で利益+55億円を目指すとのこと。

その方法はクリエーション・ファースト事業、ファクトリー・トゥー・カスタマー事業、ハイクオリティ・ライフ事業という事業と、事業構造改革の合計で55億円の増益を達成するというもののようです。

各事業のスライドを確認しましょう。

 


https://www.onward-hd.co.jp/ir/docs/20190408_3.pdf

各事業のブランディング、カスタマイゼーションによる、最短1週間で届くスマートテーラー、アパレル事業の周辺事業の強化という事なのでしょうか。ブランド価値の追求は、今期のジルサンダーのようにデザイナー変更によって業績が変わる可能性は充分秘めていますし、ファクトリー・トゥー・カスタマーは、今までオーダースーツはパターンオーダーでも出来上がるまで1カ月はかかるという所を1週間で届けることができるという新しい付加価値を提案しています。

ハイクオリティライフスタイルは、ギフトや美容、子供用品の提供は上手に誘導するとさらに利益を拡大させることができるかもしれません。

しかし、各事業で求められる営業利益の増加額は各事業で10~15億円。例えばハイクオリティライフスタイル事業はチャコットやクリエイティブヨーコなどの事業ですが、これらの国内子会社の営業利益率は約5%。ザックリの計算ですが、逆算すると新しく営業利益を15億増やそうとすると売上を300億弱増やさなくてはなりません。

売上が減少していっているなか、主要な事業ではない事業で、3年で300億の売上を増やすことは可能なのでしょうか。具体的で効果的な施策を打っていかなければ、今後3年間のオンワードの計画は未達になってしまう可能性も十分にあるように思います。

この数値目標をどのように達成していくのか。日本有数のラグジュアリーブランドを保有する企業の今後はどうなっていくのか。今後もオンワードの数字に注目していきたいと思います。