【企業分析】急成長を遂げたしまむらが大ピンチ? 「しまパト」ブームが終焉した理由とは?

来客数が非常に多いしまむら。2017年度には、なんと年間の延べ2億1000万人も来店しています。もちろん、日本人が全員しまむらに行ったわけではないので、顧客のリピートが相当多かったということになります。実際、「しまパト(しまむらの店舗に行って、気になる商品を購入してSNSに投稿すること)」という言葉があるくらいなので、リピート数が多いのもうなずける話です。

https://www.shimamura.gr.jp/recruit/2020/3minutes/

しかし、最新の決算書では主力ブランドであるしまむらの客数が減少しています。

これはしまむらにとって痛恨事です。なぜなら、しまむらはユニクロを擁するファーストリテイリングのようにSPA方式で洋服を製造しているわけではなく、基本的には他企業から洋服を買いきる戦略を取っているからです。

洋服の企画・製造をアウトソーシングしているため、服を販売した際に得られる利益である「粗利率」はさほど大きくありません。しかし、出店戦略やそれに伴う事業効率化、店舗体験などの武器を駆使して日本で2番目のアパレル企業まで上り詰めてきました。今回の客数の減少は、そのしまむらが一度自身の武器を手放してしまったために起きた出来事だからです。

しまむらで買い物をするお客さんは「主婦とその家族」

さて、しまむらの強みを確認する前にまず「しまむらの顧客」を確認しなければなりません。しまむらの顧客は「20~50代の主婦とその家族」だとされています。


https://www.shimamura.gr.jp/company/business/detail.php?id=50

実際に、商品の商品購入高の割合を見てみると、婦人衣料と肌着で50%を超え、その後寝装具、紳士衣料、子供服と続きます。

しまむらは商品の購入高の割合を見てみても、ターゲットに対して日常生活の為の商品を提供することに成功しているようです。

もう少し詳細なデータを確認してみましょう。しまむらの顧客は客数減少前の2018年2月時点においては、1億6994万3000人。一点あたりの単価は896円で、平均2.9点購入し、客単価は約2625円になります。


https://www.shimamura.gr.jp/finance/pdf/z/66_04_gaiyou/

時系列で見ると特に変動が少ないのは買上点数です。2015年から2019年までの推移を見ても2.9点~3.1点。ほぼ3点の間に収まっています。この事から、しまむらの中心顧客である主婦とその家族は、「平均800~900円の単価の洋服や小物を、3点購入する」という層が中心になります。

このようにしまむらの顧客のデータを確認していくと、しまむらの顧客がどんな人なのかかなり鮮明になってきます。1点あたりの単価は非常に低いですが、しまむらは単に安かろう悪かろうではありません。YOUTUBEなどを確認すると、しまむらで掘り出した高コスパの商品の紹介でいっぱいです。


https://www.youtube.com/watch?v=f1DMYakhe-8&t=270s


https://www.youtube.com/results?search_query=%23%E3%81%97%E3%81%BE%E3%82%80%E3%82%89

ただ、しまむらに行った事がある方はお分かりになると思うのですが、しまむらは単純にこのように高コスパな服ばかりなわけではありません。明らかにコスパの悪そうなもの、キャラクターコラボ商品、中には「誰が着るんだ?」というような服もたまに見つかったりします。最近話題になった中には「高須クリニック」の高須院長とのコラボなども。


https://www.fashionsnap.com/article/2019-06-18/shimamura-takasu/

しまむらで買い物をする背景には、様々な種類の服がある中で高コスパなアイテムを見つけ出せ!というようなワクワク感を持っている顧客が多いように思われます。

しまむらの特長は「自社企画しない」という方針

さて、このような多種多様な洋服の中から高コスパな服を見つけ出すという、一種の宝探しのようなワクワク感を提供してくれるしまむらですが、それを可能とする背景には、しまむらが自社で商品の企画を行わないという戦略がありました。

話を分かりやすくするために対極の戦略も確認しましょう。これの対極に位置するのがファーストリテイリングの採用しているSPA方式です。SPAは自社で商品の企画・開発を行うため、「ヒット商品を生み出すまで何度でも何度でも開発サイクルを回すことができる」というビジネスモデル。自社で企画したものの中から売れ筋商品に絞り込んでいく為、商品数は必然的に絞り込まれていきます。

一方のしまむらは、このプロセスは逆になります。もちろんしまむらも自社企画でプライベートブランドを出していますが、基本的にはアウトソースして様々な商品を並べていくのが基本的な戦略になります。

このようなビジネスモデルの違いは、洋服を販売した際の利益である粗利率となって現れます。SPAをとるファーストリテイリングは値引き後においても粗利率が50%近くなる一方、しまむらは粗利率は32%しかありません。

この粗利率の低さは、経営上「売上高が同じでも、赤字になってしまう可能性が高くなる」というリスクをもたらします。例えば、売上高100万円の企業が2つあったとして、一方が粗利率50%、もう一方が30%。販管費が40万円かかるというビジネスだったとすると、粗利率50%の企業は黒字ですが、30%の企業は赤字になってしまいます。

このように、粗利率が低いという事は、「赤字になる危険性が高い」というビジネスでもあるのです。

しまむらは低い粗利率でどのようにやり繰りしているのか

そんな危険性を併せ持つしまむらは、基本的には「店舗オペレーションの効率化・コストカット」などで販管費の圧縮に成功しています。下記の表はしまむら、ある上場アパレル企業、ファーストリテイリングの損益構造ですが、どの企業と比較しても、しまむらは人件費や賃料などの販管費を圧縮することができていることがわかります。

なぜこのような低い値段に抑えることができているかというと、まず店舗に対する賃料の削減です。しまむらは、一店舗当たりの賃料を非常に低く抑えることに成功しています。

この理由はしまむらが郊外に出店する事が多い事。また、基本内装は非常にシンプルな作りになっていることが挙げられます。また、対売上高比でみた、ファーストリテイリングとしまむらの販管費の内訳を確認すると、細かい部分でコストダウンを図っている事が分かります。

上記のように、しまむらは粗利率の低さを出店戦略や細かいコストダウンによって販管費を抑えることができています。このような戦略をもって、しまむらは顧客に受け入れられる商品を安価な価格で提供することによって、しまむらは業績を伸ばすことに成功していました。

しまむらは自らの強みを手放した?

さて、そのようなファーストリテイリングとも他のアパレル企業とも異なる戦略を採用しているしまむらは順調に業績を伸ばしていましたが、今期は購入者数が減少しているのはお伝えした通り。要因は様々ですが、しまむらが自らの強みを手放したということが最大の理由です。もともと、しまむらは店舗の改革に乗り出していました。「2016年型新レイアウト」と銘打たれたこの店舗改革は、通路を広くし、商品を整理し、マネキンでコーディネート紹介を行い、どこに何があるのか分かりやすくすることでお客さんの購入点数を増加させようという取り組みです。

しまむら 2016年型新レイアウトで売上好調 平台は撤去し在庫回転率が向上

このような背景には2014年から続く「裏地あったかパンツ」の大ヒットがあると思います。このパンツはCLOSSHI(クロッシー)というしまむらのプライベートブランド。粗利率も比較的高い商品です。このような商品を効果的に手に取ってもらい、販売数を増やそうとしたのでしょう。プライベートブランドを販売するためには、このような店舗配置やマネキンによるコーディネート紹介は効果的かもしれません。しかし、このような店舗では商品がかなり絞り込まれます。

実際、婦人服は2016年にこのレイアウトに換えてから約2割も商品を減らしていたようで、2018年の時点ではピーク時から4~5割商品が減ったそうです。

しまむらの成長の原動力となった「しまパト」は、もともと多種多様な商品の中から高コスパな商品を見つけ出す、宝探し感がウリでした。その商品が5割減ったとなれば、顧客からすると「何となく違う」という感想を持ってしまうのも無理はありません。結果として、今期の来客数の大幅な減少につながってしまいました。しまむらはプライベートブランドの成功を推し進めようとした結果、自身の強みを手放すこととなったのです。

今後は原点回帰を目論んでいる


https://www.shimamura.gr.jp/finance/pdf/z/66_04_tanshin/

しまむらはこの結果を重く受け止めました。2019年2月期の決算短信においては、「極端な品ぞろえの絞り込みや価格政策は、お客様に不信感を与えた」と非常に強い言葉を使っています。また、「店舗の楽しさと信頼感の回復、品ぞろえのブランド力回復への取り組みを進める」という言葉の通り、今後は原点回帰し、宝探し感を演出するレイアウトに変更していくと発表されています。

スタイリッシュなプライベートブランドはもはやユニクロが押さえてしまっていますし、しまむらは店舗体験を中心に据えていくことは戦略として正しいのではないかと思います。しかし、従来のスタイルに戻すだけでは今後の成長は非常に厳しくなってきます。しまむらは、店舗運営のコストが年々増加していっているのです。

上記は一人当たりの平均給与(左:円)及び一店舗当たりの賃借料(右:円)ですが、この費用が年々上昇しています。都市型店舗の出店を増やしている影響などもあるのでしょうが、これは、粗利の少ないしまむらにとっては非常に由々しき事態です。このような状況においては、粗利率が低い商品を中心にした単純な原点回帰のみの施策では、今後ますますじり貧になってしまうでしょう。

しまむらは今後粗利率の高いプライベートブランドの比率を40%にするという方針を立てていますが、商品が多くとも、似たような種類の商品が多いままだと顧客の心を取り戻すことができるのかが疑問です。それは商品の企画・製造をアウトソーシングすることによってデザインを多様化させたしまむらの強みを減少させる結果になり得るからです。急成長を遂げたしまむらですが、今後のかじ取りは非常に難しいものになるでしょう。どうなっていくのか注視していきたいと思います。

やなぎば

この記事を書いた人

やなぎば

身長168cm 体重63kg 靴26.0cm

「オシャレわかんねぇよ!」と叫んでいた所MB理論と出会いオシャレさんを目指し中。友人の「オシャレになったねー!」の一言が今の原動力です。