【企業分析】ユナイテッドアローズとナノユニバース、どっちが儲かっているかわかる?

今回は、日本有数のセレクトショップを展開する大企業2社、ユナイテッドアローズとナノユニバースなどを運営するTSIホールディングスの経営成績を比較してみたいと思います。


https://store.united-arrows.co.jp/


https://store.nanouniverse.jp/jp/

服好きであれば、この2社で一度は洋服を購入されたことがあるでしょう。このような大企業の経営成績を確認していくために、財務諸表の損益計算書の営業利益までの各要素を比較してみたいと思います。

損益計算書の見方について

「営業利益って?」という方もいるかと思いますので、少し説明しましょう。企業の成績は「売上-費用=利益」という非常にシンプルな構図になっています。会計や財務は企業の実態を数字の面から把握するためのものなので、なぜ業績が上がったのか、または下がったのかを測定するために、売上から差し引く費用の種類を分類して、利益を数種類に分けていきます。その中で、企業経営という視点で見ると重要になってくるのが「営業利益」です。

まず、TSIホールディングスを例にとると、売上から売上原価が差し引かれて「売上総利益」という利益になります。通常売上原価には洋服の材料費や送料、セレクトショップであれば、ブランドから入荷した洋服の仕入れ代などが計上されます。


https://www.figo.co.jp/

(こちらはFelisiというイタリアのバッグ。輸入品ですので、仕入代が原価に計上されます。)

次に販管費という、洋服を販売する際に必要な費用を差し引いて「営業利益」という利益が計上されます。


http://blog.nanouniverse.jp/kyoto01/archives/1098

(このような店舗の賃借料や販売スタッフの人件費が計上されます。)

アパレル企業のような服を仕入れて(もしくは作って)、宣伝をして売るという事業においては、営業利益は「どのような経営の結果、どのような利益がでたか?」を確認するために非常に重要な利益になってくるのです。営業利益までの要素は「売上高」「売上原価」「販管費」の3種類。この3つをTSIホールディングスとユナイテッドアローズで比較してみたいと思います。

「売上高」「売上原価」「販管費」の3要素を比較

まず売上高から見ていきたいと思います。

3年間分を比較すると、かたや増収、かたや減益という明暗がくっきりと分かれる結果になっています。6月ごろに発表されるであろう2019年の決算発表では売上が逆転しているかもしれません。

次に売上原価です。この両社は洋服を販売する会社ですので、売上の増減に比例して売上原価も増減している事がよく分かります。最後に販管費です。販管費とは、「商品を売るために必要な費用」になります。具体的には広告宣伝費、販売員の給与、店舗の賃借料などがこの販管費に計上されています。

ユナイテッドアローズは売上に伴い販管費が増加。一方、TSIホールディングスは売上減少に対応してか、販管費は減少の傾向にあります。この結果、企業の「経営の結果、利益が出たか」を測る指標である営業利益には大きな差が生じることとなります。

いかがでしょうか。2018年で言うと、TSIホールディングスは21億、対してユナイテッドアローズは105億円の営業利益があります。思ったより大きな差があることに驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。このように、複数の企業の営業利益を比較することは、企業の実際を映し出す際に非常に有用になってきます。

しかし、これだけではどこで差がついているのかは分かりません。「なぜこれだけの差がついているのか?」について少し掘り下げて見ていきたいと思います。

変動の要因を深掘り

まず売上高です。

こちらは販売チャネル別の売上高を確認していきましょう。どの売上がどのように変化しているのかを確認する事によって、実際のリアルな売上の動きを確認することができます。まずTSIホールディングスからです。

この売上を見ると、TSIホールディングスは、ネット販売が増加しているものの、それ以上に小売(店舗販売)の売上高が毎年減少していることが分かります。TSIホールディングスは現在不採算店舗の撤退を進めており、その影響が大きく出ているという状況だと言えます。


https://www.tsi-holdings.com/highlight.html

(TSIホールディングスの店舗数。2018年には1229店舗と、2015年の1793店舗から564店舗減少しています。)

次にユナイテッドアローズの売上を見てみましょう。

ユナイテッドアローズもネット販売は伸びていっているものの、小売はむしろ頭打ちであることが分かります。全体の売上の伸びは子会社のコーエン、クロムハーツジャパンなどの売上が伸びているのが大きいですね。


https://www.coen.co.jp/

(コーエンは単価が4000~5000円と値ごろ感がありつつも感度が高い層をターゲットにして伸びてきているようです。服ログにレビュー記事もあります。https://fuku-labo.com/coen-sacoche)

売上を細かく分析していくと、共通して言えることは、ネット販売は徐々に増加傾向にあり、そして日本のアパレルは大手と言えども、自社の店舗のみの売上だけでは厳しい流れがあるということでしょう。

次に売上原価です。アパレルの売上原価は、商品を製造して販売するユニクロのような販売形態か、仕入れて販売する販売形態かによって実態が大きく異なります。この両社は後者に属しているのですが、この販売形態はどのような価格帯の商品を仕入れているのか、仕入れた商品は適切に販売できたか等によってこの額は変わってきます。

例えばこれは売上原価を売上で割って、「売上のうち、何%が原価なのか?」を測っていますが、アパレルの場合、実は「何日でその商品が販売できるのか?」にも左右されます。

この図は商品を売上原価で割り、「商品は平均して何日で販売できるか?」を測る棚卸資産回転日数という指標なのですが、TSIホールディングスの方が一貫して日数が短いことがお分かりになるかと思います。

日数の短い方が売上に対する原価は低くなる傾向にあるのは、早く販売できると値下げをしなくていいからです。2016年のユナイテッドアローズの棚卸資産回転日数は120日を超えていますが、これは平均して商品が4カ月ほど置かれたままになっているということ。それ以上置いたままですと季節が変わってしまうので、売り切るために値下げをしなければならず、結果利益が下がるという構図になっています。

仕入れて販売する形態のアパレル業の売上原価は、「仕入れた商品が適切に販売できているか?」を測る指標として、棚卸資産回転日数を合わせて確認すると面白いかもしれません。

最後に販管費を見ていきましょう。

この販管費の内訳を両社ともに確認してみます。

販管費には販売スタッフや店舗の賃借料等が入ると再三書かせていただきましたが、TSIホールディングス、ユナイテッドアローズ共に人件費、賃借料は多く計上されています。しかし、よくよく見てみるとその内容はかなり異なります。例えば、販管費は全体としてTSIホールディングスの方が130億円以上多いものの、賃借料や人件費は200億円にとどいておらず、ユナイテッドアローズより少ない結果となっています。

代わりにどのような費用が多いのかというと、業務委託料等や戦略費、減価償却などの費用が多く計上されています。一方ユナイテッドアローズにはそのような費用があまり見受けられず、人件費や賃借料など、店舗などへの投資が多いように思います。

同じようなアパレルであっても、「今、更なる販売のためにはどのような費用が必要か?」と考え投資がされる販管費は内訳が大きく異なっていて面白いですね。

最後に、この販管費に紐づけて、両社の成長戦略を確認して終わりたいと思います。


https://www.tsi-holdings.com/pdf/180416.pdf

まずTSIホールディングスの戦略について見ていきましょう。TSIホールディングスは「収益基盤の強化」「成長戦略の加速」という大きな2つの軸をもって2022年までの中期戦略を策定しています。それによると基幹システムの導入、ビックデータの活用、EC拡大といったデジタル投資等の業務効率化と、海外進出が大きなテーマになっているように思います。

ユナイテッドアローズと比較して非常に多額となっていた業務委託料等や戦略費は、海外の販売の委託であったり、デジタルデータの活用のために分析を委託した費用になるのかもしれません。

一方、ユナイテッドアローズはどうでしょうか。


https://www.united-arrows.co.jp/uploads/_archives/ir/pdf/kessan_3003.pdf

こちらは強い経営基盤の確立、実店舗の強みを生かしたEC拡大、マーケットへの対応、お客様接点の拡大の4つを上げています。

ネット販売を全体の25~30%まで拡大するという大きな目標を掲げる一方、強い経営基盤を確立し、実店舗の強みを生かすとしており、その意思が販管費の人件費と賃借料に表れているように思えます。

終わりに

2社の財務諸表から企業成績を確認していきましたがいかがでしたでしょうか。この2社の決算書を見ていると、販管費の使い方に大きな差があるように思えます。TSIホールディングスは中期経営計画とともに非常に販管費が重たくなってきているため、この中期経営はしっかりと成功させることが求められるでしょう。

ユナイテッドアローズは、人件費や賃借料が増加傾向にあるものの、その伸びに対して売上がしっかり成長しているので、現在のところはかけている費用が成績に反映されているのではないでしょうか。とはいえ圧倒的な存在になっているという訳ではなく、今後も業界の変化に対応して適切な手を打ち続けていく事が求められるでしょう。今後も両社の業績に注目していきたいと思います。