【企業分析】ZOZOTOWNは何が優れているのか?服ではなく「場」を売る意味とは?

ZOZOはただのオンライン販売の会社ではありません。一般のアパレル企業とはまったく異なるビジネスモデルを構築することで成功してきました。それは端的にいうと、「プラットフォームとしての『場』をつくる」ということです。では、一般のアパレル企業とはいったい何が違うのか? ZOZOのビジネスモデルの仕組みについて解き明かすことで詳らかにしていきましょう。

アパレルのEC販売は利益率が高いようでそうでもない

(ZOZOはネット販売。ほかのアパレル企業は店舗販売です。上図:https://zozo.jp/)

ZOZOとアパレル企業の目に見える大きな違いは、オンライン販売(EC)か、店頭販売かの違いにあります。ECと店舗販売を比べた場合、ECは、販売員の人件費や販売店の賃料と言った固定費がかからないため、利益率が高くなりそうです。

(コロナの影響を排除するため一年前のデータを参考にしています。)

会計情報を見てみると、ZOZOはほかの企業に比べて売上は少ないものの、事業から得られる営業利益においては、他企業を圧倒してNo.1です。既存のアパレル企業もECに注力すれば、利益を稼ぎ出すことができるはずですが、この話はそう簡単ではありません。

まず、店舗販売が主力のアパレル企業2社の損益構造を見てみましょう。事業運営に必要な費用である販管費のうち、人件費や賃料といった費用が多額であり、両社の損益構造は非常に似通っています。つまり、同じ商材を扱い、販売経路も似ていると、損益構造は当然ながら似通ってきます。

一方、ZOZOと上場アパレル企業①の損益構造を比べると、販管費の中身がまるで異なります。ZOZOは外注費(業務委託費やツケ払いの代金回収手数料)や荷造運搬費(商品を発送する費用)が中心であり、店舗販売が中心の企業と費用構造が根本的に異なっています。

しかも、3社の損益構造を見比べると、実はZOZOの販管費がもっとも大きいことがわかります。ZOZOは販売手数料や代金回収手数料といった外注費、販売後の発送のための荷造運搬費に多額の費用が掛かっているのです。これらは、店舗販売型のアパレル企業が人件費と賃料にかけている費用と近い割合になっています。EC販売は費用が掛からないわけではなく、別の費用が発生するため、EC運営にもコストはそれなりに多額になるのです。

つまり、既存のアパレル企業がEC化すれば、単純に営業利益率が増加するわけではありません。では、なぜZOZOだけ営業利益率が高いのか。それには、根本的なビジネスモデルの差があるのです。

バリューチェーンの絞り込みとは?

まず、一般的なアパレル企業のバリューチェーンを見てみましょう。アパレル企業は、自社で商品を製造する場合も、仕入れを行う場合も、「こんな服を売ろう」と企画します。その服を調達するために仕入または製造し、販売するために店舗に出荷し、売れるまで店舗で保管し、販売するという流れをたどります。卸売りであっても、小売りであっても、基本的には商品を仕入れ(または作り)、店舗で販売するという以上、製造(仕入れ)の工程を要します。そして、そのコストは「売上原価」として計上されます。

改めて各企業の損益構造を見てみると、他の2社は売上原価が売上高の半分近くを占めているのに対して、ZOZOはわずかに11%。つまり、ZOZOは商品の製造(仕入)を行っていないということになります。言い換えると、ZOZOの商品は洋服ではないのです。

 

商品は販売する「場」そのものです。ZOZOはバリューチェーンの「販売」に特化し、「消費者とブランドをつなげる場」を売り物にしています。このような「商品を販売したい人」と「商品を購入したい人」をつなげるビジネスを「マーケットプレイス」モデルといいます。大きくひとくくりにしてしまうと、「楽天市場」「BUYMA」「メルカリ」など、近年非常に大きな力を持っている企業がマーケットプレイス型の企業であると言えるでしょう。これらの企業の大きな特徴は、自社で商品を作って売るのではありません。結果、商品を仕入れる際にかかる売上原価がなくなります。

このように、実はZOZOと他のアパレル企業は、単純に販売口がECか店舗かといった違いを超えた構造的な違いがあります。ZOZOは通常のアパレル企業に比べて、バリューチェーンを販売に絞って、他にコストをかけないからこそ、あのような高い利益率を誇っているのです。

ZOZOはマーケットプレイスとして何が優れているか?

マーケットプレイスモデルは商品が「場」なので、優劣は、「買いたい人」と「売りたい人」をどれだけ集められるかにかかっています。では、ZOZOはマーケットプレイスとして、一体何が優れているのでしょうか。これは大きく2点に分かれています。一点は、アパレル専業でのマーケットプレイスとして圧倒的No.1である点。そしてもう一点は、販売というバリューチェーンに磨きをかけている点です。

まず「アパレル専業でのマーケットプレイスとして圧倒的No.1」であることによってネットワーク外部性が確立されます。ネットワーク外部性とは、「利用する人が増えれば増える程、個々の参加者の利便性が増す」という現象です。リアルな場であれば、人やブランドが増えすぎると混雑してしまい、逆に満足度は下がる傾向があります。これはディズニーランドを思い浮かべるとお分かりいただけると思います。一方、ZOZOのように場がオンラインであれば混雑するという概念がありません。

そのため、ユーザーもブランドも増えれば増えるほど、「場」は魅力的になります。ユーザーはZOZOに行くと欲しいブランドや比較したいブランドがしっかりと揃っているので、ユーザーはそこで購入し、ブランド側は自社だけではリーチできない規模のユーザーがいるので、さらに新規出店が進むというサイクルが生まれます。

ZOZOはこのネットワーク外部性がしっかりと効いているため、アパレル専業のマーケットプレイスの中では圧倒的な売上高を誇っています。

次に販売というバリューチェーンに磨きをかけている点です。ZOZOは通常のマーケットプレイスより高い手数料をブランド側から受け取っています。改めて、マーケットプレイスのバリューチェーンを見てみましょう。販売に絞り、他の機能を担っていないため高利益率になりやすいのですが、実際に販売が行われたら「その商品はどこから発注するのか?」「発送はどこの在庫を発送するのか? ネット販売用としてわけるのか?」「ネット販売での代金の回収はどうするのか?」といった問題が生じます。


https://corp.zozo.com/ir-info/management-policy/business-model/

ZOZOは、それらの在庫管理・商品発送・代金回収といった作業も全て代行しています。赤枠でくくった全ての部分がZOZOの担っている部分であり、単に販売する他に、ブランド側の負担を減少させる付加価値を上げる取り組みを行っています。つまり、ただ場を提供するだけではなく、その前後の手続きを全て自社のバリューチェーンに組み込んでいるのです。

改めてZOZOの損益構造を見てみると、代金回収手数料や商品出荷の荷造運搬費といった、「販売」の前後にかかるバリューチェーンに多額の費用を掛けている事が分かります。


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ZOZOは将来的に倉庫や物流拠点への積極的な投資を予定しており、これらのコストはユーザーに素早く商品が届く、ブランド側の在庫を効率的に保管しておけると言ったZOZO特有の付加価値になります。ZOZOは販売口がオンラインなので、商品は基本的に売れないと返品というような百貨店や本屋のようなビジネスモデルではなく、ロングテールの販売方法も可能です。しかし、在庫保管場所には限界があります。物流拠点の拡張は、そのような在庫保管の限界を拡張するという意味でも大きな効果を発揮できるはずです。

以上、ZOZOのようなマーケットプレイスと、既存のアパレル企業の違いを見てきました。マーケットプレイスの特徴を考えると、近年、アパレル企業が軒並みEC販売の強化を目標にしていますが、ZOZOとは構造がまったく全く異なることがわかります。

単純にZOZOなどの躍進を見て真似をしている企業と、自社のバリューチェーンを考慮し、コスト配分の最適化を目的にEC化を進めている企業とでは、今後大きな差が出てくるでしょう。単純にECを増やすだけでは、逆にコストがかかってしまう恐れがあります。逆にZOZOは、今後もアパレル専業マーケットプレイスのNo.1企業として、マーケットプレイスの強みをさらに磨いていって欲しいと思います。今後は親会社となったZホールディングからの集客も見込めるので、企業としてさらに成長できる可能性も秘めています。今後に注目しましょう。

やなぎば

この記事を書いた人

やなぎば

身長168cm 体重63kg 靴26.0cm

「オシャレわかんねぇよ!」と叫んでいた所MB理論と出会いオシャレさんを目指し中。友人の「オシャレになったねー!」の一言が今の原動力です。