レナウンの経営破綻の原因は中国の親会社のせいだった!? その真相に迫る

レナウンは1902年創業の日本を代表するアパレル企業の一つです。創業が最も古く、かつては業界No.1の売上げを誇る企業でしたが、コロナが決定打となって経営破綻。民事再生法を適用したものの、グループ全体での売却は難航し、現在は主要ブランドが事業譲渡され、レナウン本体は清算。一部の子会社の存続を除き、企業としての幕を下ろすこととなりそうです。

レナウン、主力事業を小泉グループに譲渡 「ダーバン」「アクアスキュータム」など

レナウン、主力事業を小泉グループに譲渡 「ダーバン」「アクアスキュータム」など


https://www.renown.com/brand/arnold-palmer/index.html

20~30代にはなじみの薄い企業ですが、ダーバンやアクアスキュータムなど、有名なブランドを保有していました。アパレル苦境とはいえ、レナウンほどの大企業がなぜこうも簡単に経営破綻したのか? 分析した筆者の見解では、財務の問題以上に中国の親会社「山東如意科技集団」を含むグループとの異様にも思える関係性が原因だと考えています。

営業利益は大幅な赤字を計上

では、まずレナウンの財務分析から。過去10年間のレナウンの売上をさらってみると、レナウンは売上が徐々に減少しているものの、劇的に売上が落ちたという程ではありませんでした。直近の売上は減少しているように見えますが、これは決算期間を変更し、10カ月で決算が終わったため。純粋な比較はできませんが、この期間を考慮すると、大幅な売上の減少はみられません。

しかし、営業利益を見てみるとその利益は大幅に落ち込んでしまっています。その原因は様々ですが、大きくは「企業の体制からくる財務問題」と「親会社のグループ問題」があると思われます。

アパレル企業の管理体制は「売上総利益-販管費」でザックリわかる

企業の体制を見てみましょう。営業利益は、「売上総利益-販管費」で求められます。多くの日本の上場アパレル企業においては、基本的に営業利益を捻出するために、販管費は売上総利益以内にコントロールできていることが多いです。

参考までに、日本のアパレル上場企業2社の売上総利益と販管費を見てみましょう。A社は売上が伸びている際には販管費も共に増加しますが、売上が伸び悩んだ際には販管費もコントロールできています。B社はより顕著。売上と連動させて、しっかりと販管費をコントロールしています。

他方、レナウンは、最後の2期は明らかに売上総利益と販管費のコントロールができていません。売上総利益の減少にも関わらず、販管費をく下げることが出来ていません。その中身を確認してみると、大きな営業赤字を計上した2019年2月期に人員の整理などを行わず、その後の希望退職者を募集した2019年8月においては、わずか2か月後にその募集を中止しています。

レナウンが希望退職者の募集を中止 競合他社や百貨店のリストラが影響

https://www.wwdjapan.com/articles/960983

原因が競合他社や百貨店のリストラが影響し、計画の前提が崩れたためと説明していますが、それを置いても、改善のために着手するべき部分ではあったと思われます。本来手を打つべきだったタイミングで費用の削減がほぼ見受けられず、やっと始まった人員整理も中止してしまったのは、管理体制に大きな問題があったと言わざるを得ません。

とどめを刺した親会社グループの問題

ただし、大きな影響があったのは管理体制だけではありません。レナウンの親会社である山東如意科技集団有限公司のグループ企業が、レナウンにとどめを刺す取引を2つ行っています。

山東如意科技集団有限公司は縫製をメインとした中国企業ですが、多くの企業のM&Aを手掛け、「中国のLVMH」を自称する企業でもあります。そのグループの中に、恒成国際発展有限公司という企業があります。同社は、原料を仕入れて、レナウンに販売するという取引形態をとっていました。しかし、恒成国際発展有限公司は2019年2月期において、その取引形態を変更し、レナウンが材料を仕入れ、恒成国際発展有限公司に販売するという形態に変更しました。

この取引は2019年いっぱい続き、レナウンの恒成国際発展有限公司に対する売上は2期合計で76億5500万円にも上っています。そして、その金額のうち、なんと53億2400万円が支払われていないのです。

この取引は最終的には親会社である山東如意科技集団有限公司が連帯保証となっており、レナウン社内では最終的には親会社から補償を受けられるという考えがあったようです。しかし、山東如意科技集団有限公司は、結局その売掛金に対する補償を行いませんでした。これは、レナウンにとって致命的ともいえる出来事となりました。

注目すべきはレナウンのキャッシュフロー

売掛金の未回収がどれだけ致命的かは、レナウンのキャッシュフローを見るとよくわかります。キャッシュフローは、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローと、お金に色を付けて、何に、どれだけ資金が動いたのかを確認する手法です。

今期のレナウンのキャッシュフローを見てみると、営業キャッシュフローにおいて、大幅なマイナスを計上しています。金融機関から補填分の資金調達を行うことができず、結果、レナウンは保有していたキャッシュを45億円も減らし、33億1600万円のみの現預金になってしまいました。

売上は回収しないと何の意味もありあません。レナウンはあまりにも多額の売掛金を回収することに失敗しています。そして、この売掛金の回収失敗が営業キャッシュフローを大きく毀損し、結果レナウンのキャッシュを大きく減らす原因になったのです。

もう一つ大きな失敗は、前年度の商標権の取得“方法”

これだけではありません、レナウンのキャッシュフローを10年分見ていると、一気にキャッシュフローが悪化したのは、ここ数年の出来事だとわかります。

特に注目すべきは2018年2月期、2019年2月期です。この期は投資CFが大きくマイナス。財務CFがプラスです。つまり、大きな事業投資を行っています。

キャッシュフローを見てみると、2017~2018/2期は、投資CFが大きくマイナスとなり、財務CFが大きく増えています。これは、事業投資が、その資金は事業で稼いだキャッシュでなく、銀行からの借入金でも賄われているということを示しています。この投資の内容は商標権で、具体的にはアクアスキュータムの商標権の購入でした。

レナウン、国内での「アクアスキュータム」商標権を取得
https://trademark-registration.jp/renown-acquired-the-trademark-righ-of-aquascutum

アクアスキュータムの商標権を購入して、利益率を高めて反転攻勢に出る。これ自体には理解できなくもないのですが、問題はアクアスキュータムが、レナウンの親会社である山東如意科技集団の傘下にあるにも拘らず、レナウンは「ライセンスコストが年々増加するとともに、契約打ち切りのリスクも抱えている」ことを理由として商標権を購入しているのです。加えて、その投資を行うために行われた金融機関への借入金の内容が衝撃的なものでした。レナウンの2018年の決算書を見ると、確かにアクアスキュータムに対して、合計56億円の商標権を購入していることが確認できます。


https://www.renown.com/ir/securities/2018/b20lp0000001465c-att/pdf_ir180611.pdf

また、2018/2のレナウンのキャッシュフローの内容を確認すると、その中身は商標権の金額とほぼ対応した短期借入金が計上されています。

これは通常の取引ではあまり見られるものではありません。短期借入金とは、通常金融機関に1年で返済を行わなければならないものです、つまり、レナウンはこの翌年には35億円を返済しなければなりません。一方、商標権の取得の目的は、それによって利益率を上げ、長期的に回収を行っていくという方法です。売上規模から判断すると、どんなによく見積もっても1年で数億円程度の改善しかもたらさないはずです。つまり、投資と回収のバランスが取れていないのです。

このような長期的に回収を見込む投資を行う場合、通常であれば資金調達も長期的に返済を行うタイプの融資を行います。なぜこの長期借入金ではなく、短期借入金での調達を行ったのかについては、さまざまな推測を呼ぶ出来事で、実態は不明です。

が、レナウンは、わざわざバランスの合わない短期借入金によって資金調達してまで、今急いで商標権を購入する必要があったのでしょう。

やはり最も大きな問題は親会社の問題か

内部体制の問題、53億円の売掛金の回収失敗、合計56億円の商標権の無理な購入。それぞれ不自然に映る取引ですが、これらは、親会社のニュースに目を向けるとその見え方が変わってきます。

中国の山東如意科技、ドル建て社債が最安値-S&P格付け取り下げ
https://www.msn.com/ja-jp/money/other/%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%B1%B1%E6%9D%B1%E5%A6%82%E6%84%8F%E7%A7%91%E6%8A%80%E3%80%81%E3%83%89%E3%83%AB%E5%BB%BA%E3%81%A6%E7%A4%BE%E5%82%B5%E3%81%8C%E6%9C%80%E5%AE%89%E5%80%A4%EF%BC%8D%EF%BD%93and%EF%BD%90%E6%A0%BC%E4%BB%98%E3%81%91%E5%8F%96%E3%82%8A%E4%B8%8B%E3%81%92/ar-BBXXeb8

どうやら、中国の親会社は、大規模なM&Aを行いすぎた結果、資金繰りがひっ迫していました。この記事によると、S&Pは、山東省済寧市の公的企業である「済寧市城建投資による最近の支援で、山東如意は19年12月の一括償還に対応できるはずだ」と説明しているとありますが、山東如意科技集団有限公司は2019年12月までにまとまった資金を必要としており、デフォルトの危険性さえあったということです。

このレナウンの決算書は、その資金の捻出のために子会社が利用されたという風にも見えます。資材の大量購入だと市場から違和感を持って受け止められてしまいますが、売上であればそうはなりません。商標権の購入を、投資回収の期間が合わない資金調達で無理に行ったのも、この期間を考えるとつじつまが合ってしまいます。もちろん、山東如意科技集団有限公司、恒成国際発展有限公司とアクアスキュータムの決算書が手に入らないため、推測の域をでません。しかし、このような事態も十分に考えうる決算書といっていいでしょう。そしてこのような結果、100年企業が姿を消してしまいました。コロナ倒産と言われていたレナウンですが、実際に中身を見ていくと、問題は別にあったと思わざるをえません。

各ブランドが事業譲渡され、姿を消していくこととなるだろうレナウンの決算書を追うと、率直に胸が締め付けられるものがあります。せめて今後買収される各ブランドは、元気な姿を見られるように願っています。