【アパレル企業分析】不採算店の撤退で大リストラを断行したワールドに復活の兆し?


https://store.world.co.jp/s/brand/takeo-kikuchi/feature/manythankshappyholidays/vol1/?link_id=070_M_lbnr03

株式会社ワールドはタケオキクチ、オゾックなどのブランドを傘下に持つ一大アパレルブランドです。誰もが一度は聞いたことのあるブランドを擁するワールドですが、御多分にもれずアパレル不況に直面し、2015年からは企業再編に着手しています。リストラを断行し、再建に着手した2016年以降、売上は減少しているにもかかわらず、多くの利益を出すことに成功しました。

着目すべき点は、売上が減少し続けているにもかかわらず利益が増えていること。これは一体どういう仕組みなのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

ワールドの直近3年間の売上の構成を確認

まずはワールドの売上の構成を確認してみましょう。ワールドはデジタル事業として、Eコマースの運営受託や、デジタル上の顧客管理などを販売、M&Aを通して生活雑貨などを販売する体制を整える等、アパレル以外の売上を増やしています。

しかし、2019年3月時点での主な売上はブランド事業のままです。ブランド事業の売上のうち、80%以上が国内のアパレルブランド販売で、まだまだ売上の中心はアパレルの販売であると言えそうです。

アパレルの売上は日本全体で見ても減少傾向にあり、供給過多になっているという指摘を多く見かけます。実際、ワールドにおいてもブランド事業の売上は減少していて、ワールドだけ特別に売上を伸ばしているという訳ではなさそうです。

売上を増やすか、費用を減らすか

利益は売上から費用を引いたものなので、売上が減った場合、何もしていなければ利益も減っていきます。

このようにメインの事業の売上が減少傾向に陥ってしまっている場合、「頑張って売り上げを増やす」か、「費用を削減する」という2つの選択肢があります。ワールドは、売上を増やしていくための努力はしていますが、実際に利益の回復に大きく貢献したのは、費用の削減です。

ワールドの損益構造を、再建以前再建後で確認

費用の削減がどのように利益回復に影響を及ぼしているのか、再建以前の2015年と再建以後の2019年を比較してみてみましょう。まずは売上。売上高だけ見てみると、再建以前の売上高のほうが大きいことがわかります。

しかし、そこから費用を控除した後の利益は、再建後のほうが3倍弱増えています。その理由は販管費です。販管費とは、商品の販売に必要な店舗や人件費、そして企業を運営していくために必要な人件費です。この販管費を比較してみると、2015年と2019年においては、実に300億円以上の費用を削減しています。

この300億もの削減は、実際には人件費、そして商品を販売する為の場所代の削減です。ワールドはそれまで売上を拡大する路線を取っていました。その結果、売上は増えているものの、効率の悪い場所にも無理に出店してしまい、人件費や賃料などが膨らんでいました。結果として利益が圧迫されていたのです。

2015年にワールドの経営改革の為に創業家以外で初めての外部経営者であり、現経営者の上山健二社長を招へいし、「聖域を設けず、あらゆるコスト削減を貫徹する」という方針の下、店頭の販売スタッフ以外の社員の早期希望退職を募り、不採算店舗の撤退に動きます。

店舗の撤退に加え、日本のアパレルの経営環境の悪化も重なれば、当然売上高は減少します。しかし、それ以上に多くの費用の削減に成功。2015年と2019年の費用を比較すると、人件費、賃借料ともに大幅にダウンしています。ワールドの利益の急回復は、このように、徹底的なコスト削減の結果成功したものであると言えるでしょう。

懸念は1店舗当たりの売上の減少

無理な売上拡大路線を手放し、結果としてしっかりと利益を確保する事に成功したワールド。しかし、心配な点もあります。それは、不採算部門を撤退しているにもかかわらず、1店舗当たりの売上が減少傾向にある点です。ワールドは1店舗当たりの売上などは開示されていないので、開示されている情報からの割戻した額になります。

しかし、不採算店舗を撤退したということは、1店舗当たりの売上が増加してもおかしくないのですが、1店舗当たりの売上は減少傾向にあります。コストカットはいつか限界がきます。そのバランスを見つけるのが非常に難しい所ではあるのですが、この数字は気になります。

実際、前年度比で比較してみても、既存店の売上は増加には転じておらず、採算が取れるとして残っている店舗であっても売上の減少に歯止めがかかっていない状況です。

もちろん、ブランドの企画力や商品の魅力は業績を左右しますが、一つ考えられるのは、従業員のモチベーションです。集客の見込める立地の店舗は残しているはずなので、リストラ後の従業員のモチベーションがカギを握っていると考えられます。


https://en-hyouban.com/company/10011833028/1/

ワールドの店舗の販売員はワールドストアパートナーズという子会社に配属されているのですが、その会社の口コミを見てみると、残念ながらモチベーションが高いとはいえません。口コミのサイトなので実際にどれほど信ぴょう性があるかは不明ですが、不採算店の撤退を続けているにも関わらず、1店舗当たりの売上高が伸びきらないのは、このような背景が一因としてはあるでしょう。

市場環境が変化している今、ワールドはいち早く費用の圧縮を進めてきました。そして、実際に利益が出る体質になってきています。それは非常に重要なことですが、市場環境に対して適正な店舗数になった際に、どれだけ1店舗当たりの業績、既存店の業績が回復していくのでしょうか。非常に舵取りの難しい部分ですが、今後のワールドの行く末を考えたときに非常に重要になる部分です。今後も注目していきたいと思います。