【企業分析】ZARAとファーストリテイリングを徹底比較。ユニクロがZARAを超えるカギとは?

ZARAはファッション好きであれば誰もが知るアパレルブランドです。ユニクロとGUを擁するファーストリテイリングが自社のHP(https://www.fastretailing.com/jp/ir/direction/position.html)で、当初から時価総額の比較を掲載し、ライバル視してきた企業でもあります。

ZARAを率いるINDITEXはどれほどの企業なのでしょうか。今回は、INDITEXとの財務諸表を分析し、ユニクロを運営するファーストリテイリング(以下ファストリ)とどれだけの差があるのかについて見ていきたいと思います。

2社の売上を分析

まず売上から見ていきましょう。INDITEXは、国内では圧倒的に見えたファストリの売上高2兆1000万円を1兆円を上回る3兆2000万円にのぼります(INDITEXの単位は1ユーロ=130円で換算)。この売上の差をグラフにしてみます。

2014年には売上の差は一時縮まりましたが、その後差はまた広がってきています。INDITEXはファストリ以上の成長率を誇っているようです。この原因は何だろうと調べていくと、店舗数にたどり着きました。

これはINDITEXの持つ店舗数。毎年海外店舗が増え続け、2015年以降は7000店舗を超えています。これに対して、ファストリはどれだけの店舗数なのでしょうか。

なんと、ファストリはINDITEXに比べて半分も店舗を保有していません。また、INDITEXの出店スピードはファストリ以上の速さ。この差が売上の伸びに影響を与えていそうです。

加えて、驚異的なのはINDITEXの出店スピードが相当速いにもかかわらず売上やEBITDAの成長スピードが鈍らないことです(※EBITDAは、国によって異なる会計基準の差異をなるべく排して算出した利益)。

通常、企業は出店スピードを早めて積極的に売上を拡大していくと、採算性の良い商圏だけでなく採算性の見込み難い商圏にも出店せざるを得なくなってきます。これによって出店スピードに比べて売上やEBITDAなどの成長が鈍化して、最終的には出店による売上が大きくなっても利益率が下がる「売上と利益のトレードオフ」のような関係に陥ってしまうのです。

しかし、INDITEXにそのような兆候は全く見られません。むしろ、利益を表すEBITDAは売上の成長率より高い成長率を見せています。INDITEXのアニュアルレポートの店舗の出店戦略を読むと、「販売のエリアは差別化と最適化によって策定された戦略によって店舗を出店している」という表記があります。

https://www.inditex.com/documents/10279/563475/2017+Inditex+Annual+Report.pdf/f5bebfa4-edd2-ed6d-248a-8afb85c731d0)12頁

2017年で524店の新規出店(統廃合もあったようで純粋な出店増加数は183店)しており、トータルで7000店舗以上の店舗があります。それにもかかわらず、この成長率は驚異的です。

売上の伸びの差は広がる傾向にあり、その主要因は店舗数の差でしょう。しかし、売上はあくまで利益を残すためのもの。もう少しINDITEXとファストリの差を分析するために、2社の損益構造を分析してみましょう。

売上-費用=利益の損益構造をグラフ化(割合)

このグラフはPL(損益計算書)の比率を可視化したグラフです。売上から売上原価が引かれ、更に販管費が引かれてEBITDAという利益になっています。INDITEXを見ると、販売している服の原材料費に売上の44%かかっており、売上に必要な費用である販管費で39%引かれて最終的に17%のEBITDAが残っています。

なお、EBITDAとは、減価償却や利息、税金など国ごとの違いを排除した利益です。そのため、企業同士の純粋な利益を稼ぐ力を比較することができるようになります。INDITEXはスペイン、ファストリは日本に本社がある全くバックボーンの違う企業ですが、EBITDAであれば比較が可能になるのです。ファストリはどうでしょうか。

ファストリは売上のうち材料費に51%、販管費に36%支払われ、最終的にEBITDAが13%になっています。

比較すると、売上原価はINDITEXの方が7%も低いです。ここは2社の扱っている洋服の性質の違いが出てきているかもしれません。

INDITEXが運営するZARAなどは顕著ですが、洋服を作る期間が非常に短い「トレンド消費型」です。代わりに、素材の開発はあまり時間が掛けられずチープなものも多いのだとか。(詳しくはhttps://nikkan-spa.jp/896436をご覧ください。)

https://www.inditex.com/documents/10279/588551/Interim+Nine+Months+2018+RESULTS.pdf/c3b69a62-fdd2-3ce4-4559-d443c33049fc

例えば、こちらの服も非常にトレンドライクでおしゃれですが、長い期間オシャレだと認知はされないように思われます。短いサイクルで消費されるため、素材はあまりこだわる必要はないかもしれません。

これに対し、ファストリの主力であるUNIQLOの服はコンセプトが「LIFE WEAR」。素材も非常にいいものを使っています。

https://www.uniqlo.com/jp/store/goods/408719-16

こちらのカシミヤニットはカシミヤ100%。大量仕入れなどで経費は削っているのでしょうが、INDITEXの洋服との違いは歴然でしょう。このような違いを見れば、この売上原価の差は「扱っている商品がそもそも違うから」という事になりそうです。

次に販管費を見てみると、こちらはファストリの方が3%低く、低コストに抑えられています。簡単に詳細を確認してみます。まずはINDITEX。

Personnel expanses(人件費)とOperating leases(商業施設のレンタル)、その他の販管費といった費用が計上されています。人件費と商業施設のレンタルで販管費の7割近くを占めています。これに対し、ファストリはどうでしょうか。

こちらも人件費が大きいですね。次に地代家賃です。人件費と地代家賃だけだと全体の6割近くに抑えられています。そして3番目に大きい広告宣伝費を合わせると、販管費の7割近くを占めます。ファストリの費用削減がかなり徹底しているとみていいのではないでしょうか。

実際に売上と販管費の比率である販管費比率の推移を見てみると、ファストリの比率は2015年を境に減少しています。売上を伸ばしつつこの比率を下げることは簡単ではないので、ファストリのコスト削減がいかに効率的なものかが伺えます。

さて、損益構造を見たところ、原価率はINDITEXが低く、販管費はファストリの方が低かったです。EBITDA比率はINDITEXの方が17%、ファストリは13%なのでINDITEXの方が利益を残しやすい体質になっていますが、決定的な差とまでは言えません。冒頭の時価総額ほど差が付く要因には見えません。決定的な違いとはいったい何でしょうか。

損益構造をグラフ化(金額)

これを最も直感的に把握しやすかったのはグラフでした。先ほどのグラフと同じ形。ただし、今度は比率ではなく金額でグラフ化しています。

1ユーロ130円で換算すると、INDITEXの売上は3兆2936億円あり、最終的に5608億のEBITDAを残しています。このグラフを2社で比べてみましょう。

いかがでしょうか。ファストリの売上はINDITEXに比べるとまだまだ足りていないように見えます。その結果EBITDAにも大きな差が出ている。損益構造が大きく違わないからこそ、INDITEXとファストリの差はやはり売上にあるように思われます。

そしてその差は店舗の差でもありました。INDITEXは、ファストリの倍以上の店舗を有し、しかもファストリ以上に速いスピードで店舗展開を行っています。INDITEXとファストリの売上もこのままでは開く一方かもしれません。世界一の企業の経営成績はすさまじいものがありますね。

ファストリはINDITEXに対抗できるのか?

では最後に、ファストリはこのような企業にどうやって対抗しようとしているのかを確認して終わりたいと思います。ファストリは大型店舗の出店が主力であり、店舗展開も立地を吟味して展開している為出店スピードが劇的に加速していくことは考えにくいと思います。その為、いきなり売上でINDITEXを超えることは難しい。

やはり、「情報製造小売業」を通してさらに高効率な企業になることを狙っていると思います。ダイフクと組んだ無人工場や「必要な服を必要なだけ売る」といったスローガンはINDITEXに対抗する手段と考えれば納得がいきます。在庫の最適化が進むと管理コストは減りますし、必要なものはさらに仕入れの量が増えてコスト削減に繋がるかもしれません。

今後の展開は注視しなければなりませんが、ファストリの情報製造小売業が機能し、さらに利益を残せる体質になった時にファストリの勝ちの目は見えてくるのではないでしょうか。今後の両者の動きに注目してみたいと思います。

やなぎば

この記事を書いた人

やなぎば

身長168cm 体重63kg 靴26.0cm

「オシャレわかんねぇよ!」と叫んでいた所MB理論と出会いオシャレさんを目指し中。友人の「オシャレになったねー!」の一言が今の原動力です。