ファーストリテイリングの決算書から分かる各事業の現状【決算書】

日本を代表するアパレル企業であるファーストリテイリング。その規模は他の日本のアパレル企業と比べても群を抜いています。今回は、決算書の数値に基づいてそのファーストリテイリングの実際について見ていきたいと思います。

決算書の簡単な読み解き方

では、さっそく四半期決算に開示されていたファーストリテイリングの財務状況を見ていきましょう。四半期決算とは、1年という期間では企業の細かい変化を見ることができないため、1年を4回、つまり3か月ごとに発表するという決算です。ファーストリテイリングは8月末に年度の締めという少し変わった決算期間になっていますので、直近で提出される四半期決算書は3月~5月分です。

このデータでは9月~5月の9か月分の累計と、3月~5月までの四半期分の数値が計上されています。とはいっても、どの数字を読めばいいかという事については戸惑われると思います。そこで、まずおすすめは企業の成長率を見るために売上収益のYoY(前年との比較)を確認する事です。図でいうと下記のようになります。

この数値を見る限り、ファーストリテイリングは前年に比べて二桁成長を遂げています。しかも、1年前の2017年の9月~5月の累計売上収益は1兆4779億円。そこから15.3%成長して1兆7041億円の売上収益となりました。通常、規模が大きくなるにしたがって成長率は鈍化していくので、これはとんでもない成長率です。

日本のアパレルのマーケットは二桁成長するような状況ではありませんし、日本第二位のしまむらグループの直近で発表となっている2018年5月の前年比は99.7%と、むしろ0.3%減少していることを見ても、ファーストリテイリングの伸びが驚異的であることがうかがえます。

さて、売上は伸びていることが確認できました。ただし、これだけでファーストリテイリングが儲かったということはできません。売上の伸びを確認することができれば、次は「販管費」の伸びを見てみます。「販管費」とは、販売費および一般管理費の略で、社員の人件費や土地代、広告費など、主に企業が商品を売ったり、サービスを提供したりする際にかかるコストがここに計上されます。

売上が伸びたはいいものの、それ以上にコストをかけてしまっていては意味がないため、売上収益の伸びを確認したら同時に販管費の伸びを確認しておきましょう。特に一度雇った社員や借り入れた土地などの賃借代は、毎月継続してかかってくる上に途中でそれらの支払金額を減らすことは労力を要します。ここの販管費は気を抜けばすぐに膨れ上がってきますので、しっかりとこの支出を適正値に抑えることができているかが重要となります。

その販管費の数値はこちらです。この数値も同じようにYoY(前年比)を確認していきます。

併せて売上収益の伸びも継続して表示していますが、販管費は9月~5月の累計で9.5%の伸び、3月~5月は7.6%の伸びと、売上の伸びに比べてかなり抑えることができていることが分かります。ここまでしっかり抑えることができるのはファーストリテイリングがコストの削減を徹底し合理的、効率的な運営を行っているからでしょう。全体的な企業の成長の仕方として無駄なく健全に成長していることが確認できる数字ですね。では次に、ファーストリテイリングの事業の部門別にみてどこの成長率が最も大きいのかを確認してみたいと思います。

伸びが著しい海外ユニクロ、少し足踏みをしてしまったGU

ファーストリテイリングでは、ユニクロの国内国外事業、ジーユー事業、グローバルブランド事業の4つのセグメントに分類しています。グローバルブランド事業には、セオリーやコントワー·デ·コトニエ、プリンセス タム·タム等の事業がここに計上されます。一つずつ見ていきます。まずは国内ユニクロ事業。

9月~5月の累計売上収益7044億YoY(前年比)+7.8%

3月~5月の売上収益2107億YoY+6.3%

国内ユニクロの売上収益の伸び率は全体の伸びに比べると伸びてはいませんが、しっかりと成長していっている印象です。そして何より、販管費を控除した残額である事業利益が前年比で+28.9%も成長していっています。経営の基本は「売上を最大に、経費を最小に」とよく言われるところですが、このお手本のような結果となっています。決算書を読むと異常に暑い夏の影響もあり、最終四半期決算においてはYoYで減益になってしまうようですが、通算では過去最大の売上収益を計上する見込みのようです。

次に海外ユニクロ事業。

9月~5月の累計売上収益7160億YoY(前年比)+27.5%

3月~5月の売上収益2086億YoY+23.7%

ファーストリテイリングの今期の成長の立役者といっても過言ではないでしょう。なんと、9月~5月の売上収益に累計額にあっては7160億と、国内ユニクロ事業の売上収益を上回っています。売上収益の伸びも27.5%と、驚異的な伸びを示しています。この成長の中心になるのは中国ですが、アジア圏を中心にどんどんと出店しています。(9月~5月の出店状況のTOP3は中国+53店舗、フィリピン+10店舗、ロシア+9店舗。海外ユニクロ事業全体で+120店舗。参考として日本国内ユニクロは、出店数と退店数が同じで+-0。)この出店数を鑑みると、今後海外ユニクロの売上はさらに大きく伸びていく事でしょう。

3つめのジーユー事業。

9月~5月の累計売上収益1666億YoY(前年比)+6.4%

3月~5月の売上収益608億YoY+3.3%

売上収益自体はYoYでプラス成長しています。しかし、3~5月に事業利益、営業利益が-21.4%、-20.0%と大幅に落ち込んでいます。これは円換算すると15億、16億ほどの下落です。決算書に書かれている理由を確認してみたところ、チェック柄などのトレンド商品の販売が不振であることに加え、定番商品の欠品が相次いだという事のようです。定番商品が欠品してしまうという旨の記載はファーストリテイリングにおいてはよく見られるものですが、ここに対する打ち手が有明プロジェクトであり情報製造小売業への転身なのでしょう。

しかし、上期のジーユー事業のYoYの実績では売上収益+8.3%、事業収益・営業収益は+22.0%・+23.3%。その際の好調の要因はチェック柄やドット柄のトレンド商品の売れ行きが好調であったことですので、そもそもトレンド商品自体、販売が難しいという側面を持っているのだと思います。ユニクロで成功した有明プロジェクトの在庫管理などがそのまま素直にジーユーにも表れてくるのかは今後注目していきたいと思います。

最後にグローバルブランド事業。

9月~5月の累計売上収益1147億YoY(前年比)+10.1%

3月~5月の売上収益363億YoY+7.4%

セオリー、コントワー·デ·コトニエ、プリンセス タム·タム等複数の事業がありますが、セオリー事業が順調に推移し、その他の事業は赤字が継続しているようです。なお、今期の営業利益において35億円の赤字になっているのはコントワー·デ·コトニエの減損損失が89億円計上されていることによるもののようです。

まとめ

ファーストリテイリングの持つ4つの事業、整理すると以下のようになります。

国内ユニクロ

9月~5月の累計売上収益7044億YoY(前年比)+7.8%

3月~5月の売上収益2107億YoY+6.3%

海外ユニクロ(成長の要因)

9月~5月の累計売上収益7160億YoY(前年比)+27.5%

3月~5月の売上収益2086億YoY+23.7%

ジーユー

9月~5月の累計売上収益1666億YoY(前年比)+6.4%

3月~5月の売上収益608億YoY+3.3%

グローバルブランド

9月~5月の累計売上収益1147億YoY(前年比)+10.1%

3月~5月の売上収益363億YoY+7.4%

今期の流れを見ると、ファーストリテイリングの主力は海外ユニクロ事業に移っていっているようです。今後はどのように推移していくのでしょうか。国内と同じように、ユニクロとジーユーの同時展開などを海外でもやっていくのでしょうか。少し足踏みをしてしまった感のあるジーユーについては、実は海外進出を積極的にやっていった方がいいのかもしれません。ジーユーは2016年よりR&Dセンターとの連動によりトレンドを組み込んだデザイン性の高い服を出すことに成功しています。しかし、日本はトレンド感のある商品が売れにくく、素材がよい商品が売れやすいという側面(http://news.livedoor.com/article/detail/15167923/)があり、

日本での伸び悩み感があります。しかし、海外に目を向けるとどちらかというと求められているものはトレンド感のあるデザイン重視。素材は少々劣ってもトレンド感のあるものが求められる傾向にあります。

商品の移動コストなどの面を考慮するとヨーロッパに持っていくのは難しいかもしれませんが、すでに10数店舗出店している中国や韓国など、アジア圏においては十分戦える気がします。トレンド重視という戦略のジーユーは、海外中心で展開していく方がローワー層の多い市場とマッチして面白いことになるかもしれません。いずれにしても、今後のファーストリテイリングの成長は海外事業が大きなカギを握っていくことになりそうです。

 

やなぎば

この記事を書いた人

やなぎば

身長168cm 体重63kg 靴26.0cm

「オシャレわかんねぇよ!」と叫んでいた所MB理論と出会いオシャレさんを目指し中。友人の「オシャレになったねー!」の一言が今の原動力です。