【企業分析】眼鏡のJINSが一強であるのは「ユニクロ方式」にあり?

JINSは「JINS PC」などに代表されるように、「メガネは目の悪い人が買うもの」という常識を覆した企業です。JINSはなぜこのようなことが可能だったのか? そこにはアパレル企業発のビジネスモデルである「SPA方式」があるように思います。

眼鏡市場は縮小傾向だが……

まず国内のメガネ業界の全体像を簡単に確認しておきます。メガネ業界は減少の一途をたどっていて、90年代に6000億円近くあった市場は、近年では4000億円ほどまで縮小しています。市場は縮小傾向にあり、メガネ業界の経営は非常に厳しくなっています。メガネ業界の上場企業である「三城ホールディングス(メガネの三城、以下「三城」)」「JINS」「メガネの愛眼(以下「愛眼」)」の3社の2018年3月の経営成績を見てみると、三城が3期連続赤字、愛眼は赤字が目立っていたもののなんとか黒字転換というような状況です。

この2社は市場の縮小に合わせるかのように売上高も減少が続いています。しかしその中でも、唯一2010年から黒字を確保し続けて、縮小する業界に反して増収を続けているのがJINSです。

三城や愛眼が業界の縮小に合わせて売上を減少させているのに対し、JINSは売上の増加が顕著なのが一見して見てとれます。また、JINSは売上が成長しているだけではありません。2018年時点では三城とJINSは売上高の規模感が似たような比率になっていますが、実は損益構造という面でJINSは三城と比べて非常に優れた構造になっています。

売上の規模感はあれど、上記三城愛眼の2社が同じような損益構造となっている所、JINSは大きく利益を確保することに成功しています。縮小する業界、メガネという似たような商品を売るというような状況の中、一人勝ちのような状況であるJINS。この要因は一体どこにあるのでしょうか。

まず一点明らかな点は価格構成を変更し、値段を安くしたことです。メガネ業界はフレームとレンズを自分のニーズに合うものに選択すると数万円かかるというのが業界の常識であったなか、2009年にJINSはフレーム、薄型非球面レンズ、ケースの3点セットで4990円という驚異の価格設定を行い、売上前年比140%を実現しました。

(2009年に価格改定を行った際の決算説明書より抜粋:https://pdf.irpocket.com/C3046/qzIz/SkRG/m3pb.pdf)

しかし、なぜこのような価格設定を実現することができたのか。他企業の値段設定が高いからと言って、無理に値下げをしているのでしょうか。もしくは、全く別の方法で値段を安くすることに成功したのでしょうか。それを紐解くヒントは「売上原価」の中にあります。

メガネ業界のビジネスモデルの違いが端的に表れる「売上原価」

売上原価とは、「販売商品の原価」の事。メガネ業界で言うと、メガネのフレームやレンズの費用を指します。実はここにはメガネ業界のビジネスモデルの違いが明確に表れてきます。

 

売上原価率を比較してみると、三城と愛眼は原価率が30%を超えるのに対し、JINSは24%と2社に比べて原価率が低い。これは、JINSが「SPA方式」を採用しているからです。SPA方式とは、簡単に言えば「商品の企画生産販売まで一気通貫して担う事業」になります。


https://job.rikunabi.com/contents/industry/912/

下部のモデルがSPA方式です。このモデルでは、仕入れなどの中間マージンを省くことができますので一気に原価を低く作ることができます。では、SPA方式ではない他の企業はどのように原価率を下げるかというと、昔のスーパーのような仕入を大量に行うことによるスケールメリットを活かして価格を安く仕入れるような方法があります。実はJINSはここにも取り組みました。

値段を改定した2009年、JINSはメガネの中で一番高いレンズを一番安く売っているレンズメーカーへ100万個単位で一括発注。それまで何社かのレンズメーカーに分割発注するのが当たり前であった業界の常識を破壊し、仕入れ価格を劇的に減少させて安価な値段設定にすることに成功しています。

このように、JINSはSPA方式であるという強みと、大企業ならではの大量仕入れによって、圧倒的に低い価格でメガネを販売しているにも関わらず原価率を圧縮する事に成功したのです。

SPAである事がもたらした、JINSのコスト削減以外のメリット

安価な商品を作ることができるというSPA方式のメリットを明確に生かした結果、JINSは売上を急速に加速させていくことになりました。しかし、SPA方式にはもう一つ別のメリットがあります。それを確認するために、一式4990円の価格設定を打ち出してから今までのJINSの売上高の推移を見ておきます。

この売上高の推移を見ると、一式で4990円は確かにJINSの成長を後押ししたものの、それ以上にJINSが売上を伸ばしているのは2012~2013年の期間です。これがSPA方式のコスト削減以外のメリットが機能した事例になります。そしてその強みとは、顧客ニーズに合わせた商品をダイレクトに作れるという点です。JINS自身も2008年に明確に自社の強みであるとしています。


https://pdf.irpocket.com/C3046/qzIz/SkRG/cmgo.pdf

JINSはこの期間、SPA方式の強みを活かして、「視力の良い人がかけるメガネ」を開発することに成功します。


https://pdf.irpocket.com/C3046/qzIz/SkRG/hMk7.pdf

具体的には、2011年から「ブルーライトから目を守る」をコンセプトとしたJINS PC(現JINS SCREEN)や普段使いもできる花粉対策用のJINS 花粉CUT等の機能性商品の提供を行ったのです。さらに、2013年には上場先を東証一部に変更。それにより得た潤沢な資金で店舗を60店舗近く増加させ、一気に売上を増加させることに成功します。

次の年には急激な店舗拡大に伴う商品力及び店舗オペレーションの低下という、急拡大の歪みが発生してしまったようですが、JINSはSPA方式のメリットを最大限生かして市場を作り出すことに成功しています。仕入れ方式だと「メガネは資力の悪い人がかけるモノ」という業界の常識の外にある商品を作り出すことは難しいと思います。このように、JINSは「商品を安価に製作できる」「イノベーティブな商品を自社主導で製作できる」というSPA方式の強み2点をもって成長することに成功したのではないかと思います。

もしJINSがSPA方式でなかったら?

このようにJINSに大きなメリットをもたらしてくれているSPA方式ですが、仮にJINSがSPA方式を採用していない状態でJINS PCなどの商品を開発していればどうなっていたでしょうか? JINSは同じように同業他社と異なる損益構造を作り出すことに成功していたでしょうか。この点を考える際には、現在のメガネ業界のビジネスモデルについて考える必要があります。メガネ業界は、基本的に作った(もしくは仕入れた)メガネを店舗に置き、顧客にフレームを選んでもらい、目が悪い場合には視力の矯正を行い、出来上がり次第取りに来てもらいます。そう考えると、メガネを販売する際にはどうしても店舗と販売・視力矯正する人材が必要となってきます。

実際にJINSの販売費及び一般管理費には、「メガネを売る際に必要な店舗」や「店舗にいる販売員の人件費」などが計上されます。これは上記のように、店舗販売形式のメガネ販売の会社であればどこでも似たような構造になっています。

従業員には毎月給与を支払う必要がありますし、店舗の家賃も同様です。このように毎月発生する一定額の費用は、メガネを販売して得られる利益から賄うしかありません。メガネ販売は、メガネフレームの合わせが難しく、視力矯正という特殊機材がないと成立しない事業であるため、「メガネを売る利益で人件費と賃料を賄っていく」という構造になっているのです。

このような構造が企業経営にどのように影響するでしょうか。簡単にシミュレーションしてみましょう。JINSは2018年のメガネの年間販売台数が604万本。メガネ販売に当たっての売上高が523億円程度あります。なので、メガネ一個当たりの平均販売価格は約8700円になります。

JINSの原価率は約24%でしたので、メガネを1つ販売して得られる利益は6520円になりました。そしてJINSがこの期に販管費として支払った金額はザックリ350億円。1個当たりから得られる利益は6520円で割ると、JINSはメガネを何本販売すればいいかが分かります。JINSはこの条件であれば、約540万本ほど販売すればスタッフの人件費や賃料などの販管費を回収できるようになります。

先ほど述べたように、JINSの年間販売本数は604万本ですので、この基準は余裕でクリアしています。このクリアしてからの利益はJINSの利益になります。では、JINSがSPA方式ではなく、原価率が他社並みだとどのようになるでしょうか。

原価率が32%だとすると、同じ8700円のメガネを販売したとしても5793円の利益になります。利益が大体700円ほど減少してしまいました。「まあ700円程度なら」と思うでしょうか。しかし、実はこの700円が生命線になり得ます。原価の高い低いは人件費や賃料に影響を及ぼしませんので、販管費が先ほどと同様350億円ほどだとすると、JINSが売らなければならないメガネの本数は604万本に変化します。

今の値段でJINSが販売している年間販売台数が604万本なので、SPA方式でない場合には、収益がほぼ上がらないことになり、JINSの業績は他の企業の業績とほぼ同等になります。

このようにシミュレーションしてみると、JINSが他社と違って利益を大幅に生み出すことができている理由はSPA方式のメリットを最大限に活かし、原価を下げ、いい物を安く提供し、販売本数を最大化しているからだと言えるのではないでしょうか。正確な数字が分かりませんので非常にアバウトですが、このような意味でも、SPA方式はJINSに大きな利益の源泉をもたらしていることが分かります。

終わりに

いかがでしたでしょうか。最後のシミュレーションは非常にザックリですが、JINSのSPA方式がJINSの経営成績に大きなメリットをもたらしてくれている事がお分かりになるかと思います。

ちなみに、2015年からは「JINS MEME」という、ウェアラブルデバイスを搭載したメガネもリリースしています。こちらはまだ大々的なCM等はなされていないからか、販売台数が伸びているようなデータは見つけることができませんでしたが、目の動きなどの人体データを収集し、どんな時に集中しているのかを教えてくれるような機能を提供してくれる、非常に新しいメガネであると言えます。これも単純に販売する物を仕入れて、売るというような形態の企業に出来ることではないように思います。

 


https://jins-meme.com/ja/

今回は、JINSという企業を中心に、アパレル発のビジネスモデルであるSPA方式を使った場合の企業の強みを見ていきました。アパレル業界のビジネスモデルがこのように一つの業界で大きな力を発揮しているのは非常に面白いですね。JINSはSPA方式のメリットを今後とも活かして「メガネ業界のユニクロ」となっていくのでしょうか。それとも、SPA方式より更に優れたビジネスモデルを持った企業が市場を席巻していくのでしょうか。今後とも注視してみたいと思います。

やなぎば

この記事を書いた人

やなぎば

身長168cm 体重63kg 靴26.0cm

「オシャレわかんねぇよ!」と叫んでいた所MB理論と出会いオシャレさんを目指し中。友人の「オシャレになったねー!」の一言が今の原動力です。