楽しみながらファッションを学べる「魔王は服の着方がわからない」をレビュー

書店の雑誌コーナーへ行けばメンズファッション誌がずらりと並んでいます。オンラインの書店で検索をかければメンズファッションの指南本が何冊もヒットします。

そんな中でも「魔王は服の着方がわからない」ほど異色なファッション指南のアプローチはありません。

なんと「異世界から来た魔王が日本で妃を見つけるためにメンズファッションを学ぶ」というちょっとぶっ飛んだ設定の「ライトノベル」なのです。

著者は長岡マキ子先生です。歴史あるファンタジア大賞の第21回金賞受賞者。受賞作は「中の下!」で、他多数の著作があります。


中の下!1 ランク1.中の下と言われたオレ (富士見ファンタジア文庫)

イラストはU35先生。第20回電撃イラスト大賞選考委員奨励賞の受賞者です。猫又ぬこ先生の著作「魔王さまと行く! ワンランク上の異世界ツアー!!」シリーズなど、他多数のライトノベルのイラストを担当しています。


魔王さまと行く! ワンランク上の異世界ツアー! ! (HJ文庫)

そして監修はメンズファッションブロガーのMB氏。まぐまぐなどで配信されている人気メルマガ「最も早くオシャレになる方法」の他、「最速でオシャレに見せる方法」などファッションに関する多数の著作があります。


最速でおしゃれに見せる方法

そんな3人が集まって作られた異色のライトノベル「魔王は服の着方がわからない」がファッション指南本として成立しているのか、また純粋なライトノベルとして成立しているのか、レビューしたいと思います。

ファッション指南本として

まず断っておくことなのですが、僕は「魔王は服の着方がわからない」を読む前からMB氏の著作やメルマガでファッション理論である「MB理論」に慣れ親しんでいます。

ですので、「MB理論」を知らない方が読んですんなりファッションを学べるものになっているのかという点を意識して、なるべくフラットな視点で読み進めました。そして読み進めた結論でを先に言いますと、「とてもわかりやすい」というものでした。

主人公の真野央大の一人称で物語は進んでいきます。

主人公は異世界の住人なので、現代日本のファッションのことがほとんど何もわからない。そんな真野に対して、メンズファッションに詳しいヒロイン藍野瑛美がゼロからファッションを教えていくという構造で、メンズファッションの指南が進んでいきます。

章ごとに明確なテーマを持ってオシャレに見せるために必要な理論が展開されていて、読み進めることでオシャレになるために必要な知識を正しい順番で習得することが可能です。

第一章ではドレスとカジュアルのバランスやオシャレは土台であるボトムスから、という理論展開。第二章ではシルエット論。第三章では小物の効果……といった具合です。

このように章ごとのテーマが明確なので、物語であるのに、部分的に読み返して理論を復習することが容易に可能です。

また、章の最後にはテキストでの情報を補完するために、コーディネートのイラストも掲載されています。イラストレーターのU35先生の絵はかわいらしい萌え系でありながら極端なデフォルメや強い癖がないので、実際のコーディネートに近い感覚で見ることができます。

作中では主人公の真野自身が現代日本の年齢に換算すると高校生という設定であり、ライトノベルの主要読者層である中高生にも作中のファッションを再現可能なように、安価なファストファッションブランドでオシャレを構築できるようになっている点にも好感が持てました。

少ないアイテム数でいかに着回すことができるか、といったことまで作中では語られています。

また、MB氏が監修している別の作品に「服を着るならこんなふうに」という漫画があるのですが、こちらは社会人が主人公となっていますので、ファストファッションブランドを利用しつつも、ある程度の値段のするアイテムも紹介されています。

「服を着るならこんなふうに」


服を着るならこんなふうに(1) (カドカワデジタルコミックス)

同じエンターテイメント作品でのファッション指南でも、こういった違いがありますね。更に、「服を着るならこんなふうに」はストーリーよりもファッション指南本としての色が強い作品になっています。

対して「魔王は服の着方がわからない」はストーリーありきの作品です。「ファッションを勉強しよう」という気持ちで読むよりも、ストーリーを楽しんで読んでいるうちに自然とファッションの知識が増えて、オシャレに興味が出てくるような構成になっています。

上記の理由から本作「魔王は服の着方がわからない」はファッション指南を前面に押し出したものではありませんが、あえてファッション指南本として難点を挙げるならば、イラストがやや少ないと感じるところでしょう。

ただし、通常のライトノベルと比べるとイラストの数は大変多くなっています。不足だと感じる方はMB氏のブログ「KnowerMag」でコーディネートの写真を見たり、理論を学んで補完するという手法が良いかもしれません。

「KnowerMag」goo.gl/MXjLbG

いずれにしてもファッション指南の本としてきちんと成立している、というのが僕の感想です。

ライトノベルとして

ではライトノベルとして、面白さという点ではどうでしょうか。

舞台は現代日本で、魔界という異世界から主人公はやってきます。主人公の能力や魔界の世界観など、設定が甘い部分が多々見受けられるかもしれませんが、そこに本質はありません。最近の異世界転生もののライトノベルを読んでいても、その辺りに深く言及しないことが一般的なようです。

第1巻の主要なキャラは4人で、それぞれストーリーに親和性の高いキャラとなっています。

主人公の真野央大は異世界の魔王なのにオタクで、日本に強い興味を持ちつつもメンズファッションのことは何もわかりません。

主人公の乳母であるマリルダはいわゆる「ロリババア」と言われるジャンルで、実年齢と見た目が一致していないキャラです。主人公のお目付け役として、主人公と供に日本へとやってきます。

ヒロインは藍野瑛美で、自身が育った環境や周囲の影響でメンズファッションに詳しい女の子です。

そして主人公の妃候補であるクラスメイトでこちらもオタクの白石乃音。

この4人が織りなす物語となっています。主人公の真野は魔王でありながら正義感が強く、好感が持てます。恋愛事には強くなく、妃候補の白石乃音と話しているとテンパってしまう面や、買い物やデートなどを少ないお金でやりくりしようとする面などに共感できますね。女性キャラもそれぞれかわいく描かれていて、好きな方も多いのではないでしょうか。

物語としてはラブコメで、文体は読みやすくテンポがいいです。反面、風景描写・心理描写ともにやや弱いかなと感じましたが、おそらく読みやすさを優先したものだと思います。

ファッション指南の解説が入る分、スピード感に欠ける展開となっている部分はあるものの、細かくギャグを入れたりちょっとしたお色気シーンを入れたりして、退屈しないよう工夫も見られます。

主人公がオタクなので、実際にあるアニメタイトルのパロディと思われる単語が度々出てくるのですが、読んでいるとちょっとクスッとしてしまいますね。

ラスト付近では急転直下な展開もあり、続きが気になります。メンズファッションに興味のない方でも、ライトノベルとして普通に楽しめるでしょう。少なくとも僕自身は楽しく読めました。

以上のことから、面白いライトノベルとしても十分に成立していると言えるでしょう。

恋愛指南や自己啓発的な側面も

作中では女性目線から見たデートに必要な気遣いなども度々出てきます。メンズファッションだけでなく、恋愛指南の側面も持ち合わせていますね。

また、主人公の真野はオシャレに目覚めることにより、高校生活が好転していきます。ハーレム的・ギャルゲ的なステレオタイプの展開とも思えますが、しかし、ファッションを変えることは、実際に生活を激変させる可能性を秘めています。

エンターテイメント作品なので、誇張や都合のよさはあるものの、実際にファッションには生活を変える力があります。

MB氏の良く使う言葉に「たかが洋服」というものがあるのですが、その「たかが洋服」に気を遣うだけで世界が違ってくる。そんなことを伝えたいという思いが感じられる作品でもありました。

面白くて使える

結論として、「魔王は服の着方がわからない」はファッション指南本として機能しつつ、ストーリーを楽しむライトノベルとしても十分に成立している「面白くて使える」本になっています。

価格はライトノベルなので実用書よりもずっと安く、本体600円+税となっていて、コストパフォーマンスも優れていると言えるでしょう。

この1作品でファッション指南本として完結する、といったものではありませんが、メンズファッションへ興味を持ってもらうための間口として機能するのは間違いありません。

メンズファッションに興味のある方はもちろん、純粋にライトノベルが好きな方にも手に取る価値があると思います。今はまだメンズファッションに興味のない方でも、エンターテイメント作品としてぜひ読んでみてください。楽しんで読んでいるうちに、メンズファッションの知識を得て、オシャレに興味を持つようになります。

すでにMB氏の理論を学んでいる方には目新しい情報はないものの、楽しみながら復習する本として読んでみると良いでしょう。

続刊を楽しみにしつつ、漫画化・アニメ化・ゲーム化などのメディアミックス展開も期待していることを付記して、レビューを締めくくりたいと思います。

タカ丸

この記事を書いた人

タカ丸

164cm 60kg 靴25.5cm


シンプル・ベーシックなコーデが得意。ワードローブの中は、ファストファッションなどのプチプラアイテムがメイン。オシャレとともにボディメイクとヘアスタイルにも力を入れる日々。30代後半、未婚。