ヨウジヤマモトのダブルレイヤーシャツがあれば四季が楽しめる

ヨウジヤマモトのトップスの紹介です。オシャレ中級者・上級者の皆さんの中には、普通のコーディネートに飽きてきた方もいらっしゃるかと思います。

たまにはハイブランドのデザイン性を楽しみたいという気持ち、分かります。かといって、あまりに奇抜なアイテムは使いたくないですよね。そういった需要にこたえてくれるのが、今回レビューするダブルレイヤーシャツです。

シャツらしからぬサイズ感

ヨウジヤマモトの服はスーツスタイルを崩して表現することを基本線としているわけですが、今回のアイテムはシャツを崩したものになっていますね。ただ実際に見てみると、襟もないし、素材感もシャツとはかけ離れているので、どちらかといえばカーディガンのような印象です。

サイズも大きめで、身長172㎝の私がサイズ2を着て、裾が脚の付け根まで達します。ボタンを留めると、上半身がすっぽり隠れてしまうような大きさですね。

袖も、手の甲と指の付け根が完全に覆われてしまうくらいの長さで、袖口の広さもかなりあります。そのため、袖口をロールアップしても完全に腕に密着するわけではなく、歩いているうちにロールアップがスルスルとほどけて、元に戻ってしまいます。

これについては、摩擦の少ない生地だから、という理由もありますけどね。

また、袖に加えて身幅も余裕がありますので、腕まわりや胴まわりにスペースを取り、大きめ・ゆるゆるのシルエットで着ることを想定しているのが分かります。あえて体と生地との空間を空けて、服の揺れを出せるように設計されているわけです。

他人とかぶらないデザイン

サイズの大きさに加え、前身頃のデザインが明らかに他のシャツと違います。体の左側だけ、生地が二重構造になっているのです。強いていうなら、かなり大きな比翼がついているということになりますね。これによって前身頃のボタンが隠れるため、ますますシャツの要素が消えることになります。

もちろん、比翼でボタンを隠しているシャツもあるのですが、ボタンが見えるほうがシャツっぽい、という印象論です。もはや、東南アジアの装いを思わせる外観になっていますよね。

それもそのはず、このアイテムを実店舗で購入するときにスタッフの方から聞いた話では、民族衣装をデザインソースにしているとのことです。

この比翼ですが、服の機能としてはあまり意味が見いだせない一方、歩いてみたときに生地の動きが出るので、デザイン以上に脱地味に貢献するのがポイントですね。

ヨウジヤマモトの服の特徴なのですが、生地がゆらゆらと揺れて地味さを軽減してくれる上に、シルエットのゆるやかさを強調してくれます。また、個人的な感想になってしまうのですが、こうした動きがあると歩いていて楽しくなります。

裾の左右にはスリットが入っています。これだけ着丈が長いとボトムスのポケットに手を入れる際にいちいち裾をまくり上げないといけないのかな、と思うかもしれませんが、このディテールのおかげで難なくポケットからものを取り出すことができます。

そして、スリットが深く入っているということは、それだけ生地の可動域が広がるわけです。このスリットによって歩いたときの生地の揺れが助長され、服の動きをより一層楽しめますね。

首元に襟がないのでシャツっぽくない、と述べたのですが、ボタンの留め方によって事情が変わってきます。第1ボタンを留めずに他のボタンを留めると、あるいは、第1、第2ボタンを留めずに他のボタンを留めると、首元の生地が折り返されジャケットのラペルのような見せ方ができるのです。

あくまでオマケのようなディテールですが、ちょっとドレス感を足したいときの助けとなるでしょう。

素材のドレープとツヤ

すでに述べたとおり、このアイテムはシャツというよりカーディガンに近いのです。生地感に関しても全くシャツらしさはなく、比翼部分以外はレーヨン100%で構成されており、スーツでも採用される「ギャバジン織り」で織られています。

スーツ同様にウールが使われた「ウールギャバ」ではないものの、シルクのような光沢のあるレーヨンを使った、「レーヨンギャバ」の生地ですね。そのため、ウールではないながらも、スーツのようなツヤが生地に表れているのでこれだけ大きめのサイズや独特のデザインであっても、一定のドレス感を保っているのです。

そして、レーヨン特有のしなやかさのおかげで生地が波打つような動きを見せ、自然なドレープ感を出してくれます。

一方、比翼部分の素材はコットン100%です。このため、あまりツヤやドレープ感はなく、余計にレーヨンギャバの素材感の良さを引き立ててくれています。とはいえ、コットンも悪いところばかりではありません。

もし、全体が同じレーヨンギャバで構成されていた場合、カラーが黒なのも手伝ってのっぺりとした印象になってしまうはず。そこでカラーを藍色に切り替え、素材もコットンにしてガサっとした質感を与えることで、のっぺりとした地味な服からの脱却を図ってくれています。

使用感はどうなのか

さて、今回やたらと「シャツじゃなくてカーディガンだぞ」と主張してきたとおり、使い方はカーディガンに準じます。春夏はライトアウターとしてサッと羽織るのに便利ですし、秋冬になればシックなインナーとして活躍する便利屋です。

カラーも黒ベースで使いやすいし、前述したとおり、色と素材の切り替えのおかげで地味さも解消していますので、テキトーなコーデに合わせても、大失敗になりにくい安心感がありますね。スーツに使われる素材がどうのこうのとか言って、春夏に着たら暑苦しいんじゃないか、と思われる方もいるでしょう。

しかし、生地の質感は見た目以上にサラサラとしていて、裏地が付いているわけでもなく通気性は十分に確保されています。そして、何より体と生地との距離が近くないので、ベタつくこともありません(さすがに、40℃近い日には着たくないです)。

ただ、カーディガンに準じるのは良いことだけではありません。家で洗濯できるものではないので、クリーニングに出す必要があります。しかも、例によって高級ブランド用のコースになり、値段は通常の倍程度(お店の設定によります)。

素材の丈夫さもあり着用しているだけで傷んだりはしないのですが、首筋に触れる箇所は確実に汚れているため、年1回はクリーニングに出したいところですね。ところで、季節を選ばず着られる万能性をうたっている関係で、秋冬のアウターとしてのキャパシティが気になりました。

どれくらい着こむことができるか試すべく、極暖ヒートテック・オックスフォードシャツ・ミドルゲージセーターを重ね着したうえに着てみました。

実際に着てみたのが上の画像ですが、どうでしょう。インナーを厚く着込んだにもかかわらず、ほとんどシルエットに影響がないのが、お分かりいただけるでしょうか。とはいえ、これはあくまで実験的な試みですので、真似しない方が賢明です。

実際に着る際は、もう少しインナーとの間にスペースを取るようにしたいですね。ヨウジヤマモトの服では、こういったゆるいサイズ感のデザインが多く、体と服との距離感を大事にする、というデザイナーの考えがしっかりと反映されていますので、それを台無しにしてまで着こなしの幅を広げるものでもないでしょう。