【企業分析】リーバイスはなぜ凋落したのか? デニムブーム復活なるか?


https://www.levi.jp/501-1

2020年1月、リーバイ・ストラウス ジャパンが上場廃止になりました。サンフランシスコにある親会社リーバイ・ストラウス・アンド・カンパニーがTOB(公開買い付け)を行い、完全子会社し日本での上場を廃止したのです。リーバイ・ストラウスは誰もが知るアパレル企業です。知らない人がいないほどメジャーな商品を提供する企業が、なぜ、上場を廃止することにしたのでしょうか?

 

そのヒントは会計情報にあります。実はリーバイスは、ピーク時に比べると売り上げが半分になるほど減っていました。今回は、完全子会社化が、再起の重要な一手であるという仮説をもとに、財務数値を見ていきたいと思います。

問題は「キャッシュフロー経営」ができていないこと


https://ssl4.eir-parts.net/doc/9836/yuho_pdf/S100F9Q6/00.pdf

さて、企業の戦略は、会計情報になって結果として反映されます。リーバイ・ストラウス ジャパンは、経営戦略が達成できた指標として、売上高、営業利益率ならびに営業キャッシュフロー(事業で稼いだキャッシュ)を重視しています。

これら3つの指標は、整理するとこのような関係になります。売上高を増加させつつ、コスト削減ができると、営業利益率がよくなり、結果として、営業キャッシュフローが改善されます。

しかし、財務指標を見てみると、直近5年間の売上こそ増加傾向ですが、営業利益はやや微増、営業キャッシュフローは改善されていません。つまり、「売上を伸ばして、営業利益を伸ばして、営業キャッシュフローを伸ばす!」という作戦が機能していません。これは、営業キャッシュフロー改善には、売上と営業利益を伸ばすだけでない、別問題が存在していたということになります。

問題はCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)にあった

では、その問題はいったいどこにあるのでしょうか?

この問題の原因は、定量的に分析をするとCCC(キャッシュコンバージョンサイクル)にあることがわかります。CCCというのは、企業が商品を仕入れ(投資)してから、代金を回収するまでのサイクルを分解し、投資回収プロセスのどこに問題があるかを可視化するフレームワークです。

そのCCCを見てみると、売上が上がった直近5年間、同様に増加しています。

では、なぜ売上の伸びと同時にCCCが伸びているのか。直近5年間のCCCをさらに分解してみてみましょう。すると、在庫の期間が伸びています。つまり、CCC悪化の原因は、仕入れてから販売するまでに時間がかかっているということであり、「販売」のプロセスに原因があります。

この問題の大きな要因は、実は販売戦略にある

では、販売プロセスのどこが問題なのでしょうか。リーバイスの取っている販売戦略は、シンプルに言えば市場の拡大です。市場の拡大には、多くの消費者にジーンズを手に取ってもらう必要があるので、全国に素早く商品を広げる必要があります。そのため、自社で店舗運営をすることよりも、基本的には販売店に卸す形で売上を伸ばす戦略を取ってきました。おそらく、全体の売上の9割超は卸売だと推定されます。

卸売のメリットは、自社で店舗をつくって投資する資金が要らず、多くの顧客に商品を届けられるので、商品が売れている間は、事業を急拡大させることができます。しかし、顧客が、商品の購入者ではなく、小売店になってしまうので、その売上が一極集中すると、小売店の販売スペースを他社に譲らないために、小売店の要望が最優先となり、売上を確保するために、多くの型を製作し、とさまざまな要因によって在庫過多になる可能性が高くなります。実際にリーバイスの売上先は、一社に集中しています。

その一極集中がライトオンです。その影響力は非常に大きく、リーバイ・ストラウス ジャパンの売上の約3割近くがライトオンで、その売上の増減は、リーバイ・ストラウス ジャパンの全体の売上を左右するまでに至っています。

また、リーバイ・ストラウス ジャパンの売上は2005年をピークに落ち始め、2012年を境に増加に転じていますが、ライトオンへの売上と、在庫の相関関係をこの期間で区切ると、明確に相関関係の違いを確認できます。

これは、販売をライトオンに頼ってしまっているという見方をすることができます。つまり、リーバイ・ストラウス ジャパンは卸先の一極集中の弊害をもろに受け、売上の伸びは達成したものの、在庫を抱え、結局営業キャッシュフローを改善できていないのです。

売上を伸ばす主要な要因であったライトオンへの売上が、実が営業キャッシュフローを改善に悪影響を及ぼすという、非常に根深い問題が存在しています。

アメリカ本社はこの問題に着手するのか?


https://ssl4.eir-parts.net/doc/9836/tdnet/1757094/00.pdf

(TOBの際の公開書類より一部抜粋)

営業キャッシュフローが改善しない原因はライトオンへの売上一極集中であることがわかりました。それらを踏まえて、TOBした際の資料を確認してみましょう。注目すべきは市場在庫の適正化を図ること、そして独自店舗であるリーバイスストアの新規開設等の継続的な設備投資を行っていくことと明言されている点にあります。

つまり、アメリカ本社は問題の根幹に手を付け、リーバイ・ストラウス ジャパンでは成し得なかった、卸売一極の現状を変え、多様な販売チャネルから消費者へアプローチする「オムニチャンネル」へ舵を切ったといえます。

これはリーバイ・ストラウス ジャパンには、問題自体を特定していても実行が難しい一手です。例えば、2018年にはWWDに「29ある店舗を3年で倍増させたい。」「1年間に5~10店舗増やしていく。」という記事が掲載されていましたが、これは可能なのでしょうか。

リーバイスの店舗が1㎡当たり13万円程度の単価、大阪店のような大型店が400㎡、渋谷店のような中型店が200㎡、小型店が100㎡としても、10店舗出店してしまうと、店舗への投資だけで2億円弱はかかる計算になります。

2017年の大阪の旗艦店を出店した際の帳簿価格は建物に約6000万円、備品に2000万円、リースで1億6500万円の合計2億5000万円弱がかかっていることから、5~10店舗出店するには、実際にはもっと多額の資金が必要そうです。そんな状況の中、リーバイ・ストラウス ジャパンの2018年11月時点の現預金保有額は約9億円。現預金をすべて使い切るわけにはいかないので、店舗出店を加速させるにしろ、ECなど別のチャネルに注力するにしろ、資金が十分に足りているとは言えない状況にあります。

一方、本社の手許現金は2018年11月時点で7800億円ほど。9億円のリーバイ・ストラウス ジャパンとは圧倒的に資金力が違うという状況にあります。この内、日本市場に投下される資金は不明ですが、成長させるために使える投資額は文字通り桁が違うといえるでしょう。

オムニチャンネルを確立するには、自社店舗を増やすにしろ、ECに重点を置くにしろ、まとまった現預金が必要です。また、組織を一体にすることによって、調整に要していた費用や、日本の市場に上場していたコストを削減することができ、そちらも商品開発やチャネル開拓に回すこともできるようになるかもしれません。リーバイ・ストラウス ジャパンだけでは難しかったこれらの戦略が、リーバイ・ストラウス・アンド・カンパニーが直接運営することによって、一気に実現可能な戦略になったのです。

このようにTOBは実はリーバイ・ストラウス ジャパンの抱える問題の根幹にアプローチできる一手だったのではないかと思います。今までのライトオンとの関係や、手元資金の関係から、自社店舗を出し、新たなチャネル開発をする余裕はないように見えました。本社の潤沢な資金を活用できるのだとすると、この一手は非常に強い一手だと思います。今後リーバイスは日本においても再び勢いを取り戻すのでしょうか。注目してみておきたいと思います。

やなぎば

この記事を書いた人

やなぎば

身長168cm 体重63kg 靴26.0cm

「オシャレわかんねぇよ!」と叫んでいた所MB理論と出会いオシャレさんを目指し中。友人の「オシャレになったねー!」の一言が今の原動力です。