60年代のヴィンテージロレックス「プレシジョン」は故障を乗り越え愛機に

「いい時計が欲しい」2015年冬、筆者は時計を探していました。まだ手に巻いたことのないずっと飽きのこない時計を。条件はいくつかありました。「白文字盤」「銀ケース」そして「機械式」。自分の服の好みから、上2つは決めていたのですが「機械式」については未体験。ただあの、流れるような秒針の動きに憧れたのです。

店舗や知人から情報を集めた結果、ついに私はヤフオクでこの時計を目にします。それがロレックスプレシジョンとの出会いでした。出品者は時計技術者の方で、アンティーク時計の出品者として非常に良い評価を集めていました。「この方なら、間違いない」「何よりこのルックス」と半ば勢いで落札。13万円位だったと思います。

こうして、「機械式」についてほとんど無知のまま私はアンティークウォッチの世界に足を踏み入れました。この記事は「初心者に毛が生えたレベルの時計知識」の私の体験記です。私と同じくらいの時計知識の方向けに書くつもりです。購入を検討されている方の一助になれば幸いです。

なお本記事において、古い腕時計を「アンティークウォッチ」。その中でも古いロレックス社製のものを「ヴィンテージロレックス」という呼称にさせていただきます。

愛機紹介

名称 ロレックスオイスタープレシジョン/RefNo 6426/ムーブメント 手巻き/製造番号  225****/ケース径 33mm/ラグ幅 19mm/年式 1967年

この時計はロレックスが1960~1970年代に作っていた「プレシジョン」というモデルです。プレシジョンとは、英語で「正確な」という意味を指します。実際に製造から50年以上経った今でも、ほぼ正確に時間を刻み続けています。名前に偽りなしの信頼性の高いモデルです。

機械式の時計です。機械式とは巻いたぜんまいで動く方式です。特徴は電池を使わないこと。巻いたぜんまいがほどける力が内部の歯車達に伝わり、針を動かしています。ぜんまいの巻き方は手巻き。時計の3時の位置にある竜頭と呼ばれる小さなネジをゆっくりと回して巻き上げていきます。

チキチキチキ…チキチキチキ…とだいたい20回転くらい巻くと巻き上げ切ったことになります。この状態で約24時間、時計が動き続けることになります。動いている間、秒針はなめらかに進みます。スイーと文字盤の上を滑るように。偶然にもこれは「スイープ運針」と呼ばれています。

機械式時計の大きな特徴の一つです。ここでもう一つ機械式時計の特徴を。それは「3~4年ごとに時計修理店で清掃や調整してもらう必要がある」ということ。その清掃や調整を「オーバーホール」といいます。オーバーホールの費用は3万円前後。高額ですがこれを行うことにより、数年数十年と時計としての機能を継続させることができます。

外観も見ていきましょう。この時計、時刻をしめす数字がありません。立体的なバーが本来数字のある位置に置かれています。これは「バーインデックス」と呼ばれています。秒針は鉛筆のようにスッと伸び、先がとがっています。これは「ペンシルハンド」
この2つはデザインのテイストが似ているため、時刻の読み取りやすさに貢献しています。

やや小ぶりのステンレススチールの時計です。ケース径、時計自体の大きさは33mm。2017年現在、流通しているメンズウォッチと比べると一回り以上小さいです。風防、時計を守る透明なパーツはプラスチックでできています。ちなみにふっくらと丸い「ドーム型」。ベルトは「リザード革」です。

 修理体験記!

こうした現行品にはないレトロな仕様で、私を魅了したプレシジョン。しかし一方で相次ぐ故障に手を焼いていたことも事実でした。下の表をご覧下さい。

2015年12月 ヤフオクで落札
2016年  1月    夜中に35分の位置で止まりだす。
2016年  7月 上記トラブル悪化。風防割れ。①オーバーホール  ②風防交換
2016年  8月    上記トラブル改善。風防「フラット型」になる
2016年10月  風防「ドーム型」に戻すため。③風防交換
2016年11月 「ドーム型」風防になる。秒針が取れたため④秒針付け直し

これは、私のプレシジョンの故障との戦いの記録です。順に見ていきましょう。2015年12月に購入。翌年1月にはさっそく「時計が止まる」というトラブルを経験しました。これは私にとって未知の体験でした。電池式の時計なら「電池を替えれば済むな」と考えるでしょう。

しかし、この時計は機械式。内部がどうなっているのか、さっぱりわかりません。修理ができるお店にすぐお願いすればよかったのですが、「高額だったらどうしよう」「ヤフオクで買いましたなんて言ったら怒られるかもしれない」など、頭は不安でいっぱいに。結局、修理のハードルの高さゆえに私は放っておくことにしました。

「アンティークはこういうものなんだ…」と。しかしこの症状は時とともに悪化。「夜中に止まる時計」は「頻繁に止まる時計」へと変わってゆきました。止まりさえしなければ時刻にズレはなく動いていたとはいえ、よく使っていたものだと今となっては思います。

そして2016年7月。ついに風防が割れます。実はプラスチック製の風防には、小さな傷なら専用の磨き粉を使えば、元どおりになるという特徴があります。しかし、この時の傷はご覧のとおり。磨いても直せないほどでした。エレベーターに乗る際、ドアにぶつけたことが原因でした。

仕方ない…それをきっかけに、ついに私は修理工房へ時計をもって行くことにします。
「3週間お日にちいただきます。代金は後払いです」
不安でいっぱいの修理依頼でしたが、拍子抜けするぐらいあっさりしていました。お願いしたお店はウォッチレスキュー横浜みなとみらい店。いくつかの質問に答え、連絡先を書き、時計を預けるだけでした。そして3週間後…。

時計は無事直っていました。35分の位置で止まらずスムーズに動く秒針。傷一つない風防。①オーバーホール(2万5000円税込)と②風防交換(5400円税込)を行っていただいたお陰です。時刻も正確で、やっと時計として使えるようになりました。この時とても安心したことを覚えています。

ちなみに時計が止まる原因は「油が切れていたため」でした。プレシジョンはヤフオクで落札しています。ネットオークションでは時間が限られているため、商品への満足のいく確認ができません。しかし購入元に十分な確認がとれれば、今回の「トラブル自体」は避けられたかもしれません。「機械式」の時計に無知だった私の落ち度でした。

(上 秒針が取れた様子/下 修理後)

しかし、トラブルは続きます。時は流れ2016年11月。今度は秒針が取れました。原因は「秒針自体の劣化」と説明を受けましたが、すぐに締め直しをしてもらい、事なきを得ています。

「FIREKIDS」店舗外観 https://goo.gl/z8Bq4E

ちなみにその時お世話になったお店は白楽にある「FIREKIDS」。アンティークウォッチの修理に強いお店です。実は2016年10月にもプレシジョンの「ドーム型」風防への付け替えをお願いしています。8月に風防が割れた際「ウォッチレスキュー」では部品がなく、「フラット型」の風防で直していただきました。

しかし、私は元のレトロな仕様へのこだわりを捨てきれず、結局こちらに相談することになりました。FIREKIDSでは、古い時計の部品を多く保有しており、「ドーム型」風防もご用意していただきました。ちなみ風防交換は5400円(税込)。秒針付け直しは無料にて対応していただきました。

お店が忙しい中でも、親切に対応していただける職人さんのいるお店です。私が次にオーバーホールを行う際にはこちらにお願いするつもりです。全国郵送修理にも対応しているのでアンティーク時計に困ったらぜひこちらに相談してみてください。

やっぱりいいぞヴィンテージロレックス

この時計は「合わせを選ばない」です。春夏秋冬の腕元を撮ってみました。春はデニムジャケット、夏は半袖にヴィンテージのブレスレット、秋はワークジャケット、冬はフォーマルなジャケットにて合わせています。シンプルで、機能的な外観のため、あらゆる装いに対応できます。

この「シンプル」な見た目も私の好きなポイントです。文字盤は「バーインデックス」、針は「ペンシルハンド」。時間が読み取りやすく「実用的」で「モダン」な印象です。ロレックスであるけれど「豪華」や「権威的」ではありません。静かにものの良さを主張してくれています。

また、アンティーク特有の「温かさ」も気に入っています。文字盤は日に焼け、秒針の先端も少しくすんでいます。長年、持ち主と出かけ、大切にされてきた様子が浮かびます。こうした「良い過去」を思わせてくれるところもアンティークウォッチの魅力です。

カワイイところも外せません。手巻式の時計であるため、1日以上ねじを巻いていないときは止まっています。しかし、巻くと途端に「ヨイショヨイショ」と歯車の音を立てて秒針が動き出します。この瞬間はまるで生き物のように見えます。機械式時計にハマる人の気持ちがこの時計を使ってわかった気がしています。

あと、私の場合、意外と気は遣っていません。「水場は避ける、携帯電話と近づけない、ねじはゆっくり巻く」など機械式時計にはいくつか注意すべき点があります。しかし上にあるように「カワイイ」と感じているため、大切にしようと、自然とそういった使い方は控えるようになりました。

いろいろあった後で思うこと

「買ってよかった」2017年夏、私は改めてそうおもっています。故障は2016年冬が最後。現在、順調に動いているこの時計を見るたび「ああ、無事でよかった」と嬉しくなってしまうのです。使い勝手に関係なくこの時計を好きになっています。「壊れやすい時計など、問題外だ」という人は多いでしょう。

いくら見た目が良くても時計として正確でないなら、仕事や生活に支障がでます。もちろん私も大切な局面では、この時計はひかえています。しかしそれでも、毎日のように巻いて出かけます。なぜでしょう?それは私がこの時計に愛情をもっているからです。購入した1年目は修理続きでした。

修理店に駆け込み、直って戻ってくる……。一喜一憂の繰り返しでした。しかしそうしているうちに「繊細な生きもの」を世話しているように感じてきました。手間はかかるけれど可愛いものだと。「買ってよかった」は本心です。…と綺麗事を書きましたが、次はいつ壊れるかわかりません。

古いものである以上、手間をかけていても壊れやすいのです。私も修理後すぐに秒針が取れましたから。安心はできません。しかし、それでも、アンティークウォッチには魅力があります。現存する古いものが持つ輝きをずっと眺めていたい。使い込んで一緒に年を取っていきたい。男のロマンの類の妄想はつきません。

最後に、私が時計の勉強のために読んだ本の中からこの体験記の締めにぴったりな言葉をご紹介します。

“アンティークウォッチは魅力的だが、ババをひく。恐れずに屍の山を越えていきましょう!”
マキヒロチ著『100万円超えの高級時計を買う男ってバカなの?』より。

そんな気概をもって付き合いたい代物ですね。