【7/2発売】服ログアイテム「シルバーブレスレット」工房レポート

「市場にはないアイテムを格安で提供する」ことを掲げて商品開発を続けてきた『服ログ』のファッションブランド「Re:」。2018年SSの最後を飾るアイテムは、「一生使えるシルバーブレスレット」です。「一生使える」「生涯使える」ともなると、まず思いつくのは某有名ブランドですが、価格帯は最低でも20万円以上。まさに高嶺の花です。しかし、そんなアイテムが、もし数分の一の値段で買えるとしたら……。

そもそもなぜ「一生使える」ことを掲げたのか? たとえば、10年は自分で使ったとします。もし子供ができたら20年後には譲るというアイデアがあります。機械式時計やシグネチャーリングなど世代を受け継いで継承していくアイテムがあれば、10年、20年、30年と育てていく楽しみがあります。そのアクセサリーはファッションという概念を超え、「継承」することを目的とした新たな付加価値が生まれます。そういったアイテムを本気でつくりたいと考えたのです。

そんな無謀とも思えるコンセプトに快く賛同していただいたのが、新潟に工房を構える職人たちでした。現在は、兄弟で複数のアクセサリーブランドを展開し、デザインから製作までを行うアルチザンです。今回は、念願のサンプルが完成したということで急遽、新潟の工房にお邪魔してきたので、その模様をレポートします。

――シルバーブレスレットを作成するにあたって、まず苦労した点を教えてください。

新木:いただいたテーマが「一生使えるもの」ということだったので、まずはデザインで悩み抜きました。シンプルで飽きがこないという点は前提ですが、アクセサリーはシンプルすぎても面白味がありません。そのバランスをいったいどうとるのか? また、素材はシルバー925なので、どうしてもコストがかかってしまいます。その価格帯に見合うよう、パッと見た印象もある程度は華美でゴージャスにする必要があり、その相反する矛盾をどう超えていくのか工夫することを念頭におきました。

――サンプルを見てまず思ったのは、その重厚さです。しかし、手に取ってみると実に優美でした。シルバーブレスレットというと、ヤンチャな印象があったのですが、実際に手にとってつけてみると、まるでエレガントなドレスをまとったかのようなドレープの美しさに驚きました。

新木:パーツひとつひとつを丁寧に研磨したことで得られる丸みやカーブによる立体的な単体の美しさもさることながら、全体でみたときのバランスの美しさは一番考慮したことなので、その点はきちんと表現できたという自負はありますね。

――このシルバーブレスを製作するにあたってどういった工夫をされたのでしょうか?

新木:アクセサリーはまず原型をつくるのですが、試行錯誤を重ねてこの形になるまでに、半年近くかかってしまいました。というのも、シンプルさと華やかさを両立させるのは難題です。例えば、ブレスレットには着脱するためのフックパーツという留め金があります。多くのものは、時計で使うようなバネ式であったり、マンテルというリングとT字のパーツで着脱する方法などがあるのですが、銀製のバネ式は壊れやすく、マンテルではチェーンの連続性が途絶えてしまうと考えました。

それでは一生使えるものにはならずデザインコンセプトにも合わないということで、最終的に、コマの一部を削りだして、ある角度になった瞬間だけフックがかかるようオリジナルのフックパーツを作成しました。そうすることで、全体のデザインを損ねることなく、本来のデザインを活かすことができます。そういった工夫を試行錯誤しながらデザインしてきたので、膨大な時間がかかってしまったのですが……。

――このフックパーツの美しさは格別だと思いました。コマの一つ一つをつなげ、無垢素材の湾曲したプレートになんの違和感もなくつながっています。

新木:コマについてもそれぞれ工夫があり、よく見ると、無垢素材のプレート、6つの小型のコマ、中型のコマ、大型のコマ、中型のコマ、4つの小型のコマ、2つのフックパーツという構成にして、身につけたときにプレートの裏側に大型のコマがくるようにバランスをとってあります。そうすることでボリュームの流れをつくり、シンプルでありながら、重厚さと華やかさといった相反するデザインの両立が可能になったと思います。

――手間ひまがかかっているように見えるブレスレットですが、実際の工程ではどの程度の時間がかかるのでしょうか?

新木:原型をつくるのに半年近くかかってしまったのはお伝えしたとおりですが、アクセサリーは原型の各パーツを工場で鋳造してもらいます。鋳造された各パーツを磨いて、接合し、また磨きをかけるのですが、16個のパーツがあり、それぞれ形状が違うものを、ひとつひとつ磨きをかけていくので、1本をつくるのに相当な時間がかかってしまいます。

―― 一つ一つのコマを研磨しているんですね……。その作業はどういったものなのでしょうか?


(左/原型のパーツ 右/鋳造されたパーツ。上部にバリがついている)

新木:鋳造してもらったパーツには、湯道といって湯口から鋳型へ溶解した銀をみちびく道があり、プラモデルのパーツのようにバリができてしまいます。そのバリをまず、糸のこで削ぎ取ります。次に、目が粗い順に4種の鉄やすりがあるのですが、これを粗い順にひとつひとつかけていき、次に、ハンドリューターといって電動の切削工具でこちらも4種を使って順に削って磨いていきます。

その工程を16パーツ繰り返し、次に、ひとつひとつを接合していきます。その後、すべてのパーツの面を同じく鉄やすり、ハンドリューターで丁寧に研磨していきます。そして、最後に仕上げの磨きの工程があり、バフモーターを使って光沢を与えて完成です。工場から鋳造されてあがってきたパーツと比べると輝きは一目瞭然だと思います。


(糸のこでバリを削り取る)


(4種の鉄やすりで磨きをかける)


(4種のハンドリューターさらに細かく磨きをかける)

――それだけの作業工程であれば、たとえ熟練した職人が作業したとしても時間がかかりそうです。

新木:集中して6時間はかかってしまうので、どうやっても一日1本が限界ですね(笑)。幸い我々は、デザインと製作の両方ができるので、いただいたオーダーやコンセプトを自分たちの手で具現化する術があります。すべてハンドメイドで丁寧に仕上げているので、誰しもが納得してもらえる一品になると思っていますね。

デザイン性もさることながら、熟練工が時間をかけてひとつひとつ丁寧に仕上げた逸品になることはまちがいないはず。シルバーブレスレットにもいろいろな種類があり、ビンテージを中古で買うという手段もあります。しかしながら、いま日本でそこにいる熟練工がハンドメイドでつくったアイテムを買って次世代に受け継いでいくという楽しみは格別でしょう。