【企業分析】スーツの青山は利益が激減。復活のカギはカッコイイ大人の復権?

最近スーツ業界に大きな変化が起きています。売上高は前年から少しずつ増加傾向にあるものの、利益が大幅に減少しているのです。

3年前と現在の最終利益を比較してみたところ、なんと大手3社の利益が軒並み半減しています。はるやまは通期で赤字を計上。一体どのような変化が生じているのでしょうか。今回はスーツ業界を取り巻く環境を確認したのち、業界最大手の青山商事の財務諸表を元にその原因を探っていきましょう。

スーツ業界を取り巻く環境を確認

青山商事の業績を確認する前に、スーツ業界を取り巻く環境を確認します。日本においてはスーツは主に“仕事着”。休日に着用することは少ないかと思います。という事は、スーツの需要=スーツを着て仕事をする人間の数でもあります。その人口は年々減少傾向にあります。


【出典】総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」2020年以降は「国立社会保障・人口問題研究所」のデータ(平成30年3月公表)に基づく推計値を用いたデータに基づいて表を作成

また、伊藤忠や住友生命などの大手企業が「脱スーツ」を推進。スポーツ庁はスニーカー通勤などを推奨したりと、スーツを着用しない仕事の仕方が増えてきています。


http://career.itochu.co.jp/student/culture/environment.html

また、近年クールビズが日本のビジネスシーンに深く浸透。2017年の資料ですが、天気予報専門メディア「tenki.jp( http://www.tenki.jp/ )」内の『tenki.jpラボ( http://www.tenki.jp/labo/ )』にて、20代から50代までのオフィスで働く会社員男女400名を対象に実施した「クールビズに関するアンケート調査」においては、クールビズを知っている人口が98.3%、実施したことがあると回答した人が61.5%と、非常に多くのビジネスマンがクールビズを実践しているという結果になっています。


https://storage.tenki.jp/storage/static-images/suppl/article/image/2/23/230/23071/2/large.jpg

スーツを着用する世代の人口減少、大手企業の脱スーツの動き、クールビズの浸透…様々な面からスーツ業界は逆風が吹いているといえそうです。では、このような環境下の中、青山商事の経営成績を確認していきたいと思います。

青山商事を例に、なぜ利益が半減しているのかを確認

まずは青山商事の全体像を確認しておきましょう。青山商事は「洋服の青山」などのビジネスウェアの他に「アメリカンイーグル」などのカジュアル事業、さらにはカード、印刷、雑貨、リペア等複数の事業を運営しています。


http://www.aoyama-syouji.co.jp/ir/library/presentation/2017/pdf/pr_2017q4.pdf

しかし、売上の比率で見ると未だにビジネスウェアが圧倒的。複数の事業を展開するものの、ビジネスウェア事業がメインです。

2016年~2019年の売上と利益の関係も確認しておきましょう。青山商事の売上と利益の推移を確認してみると、青山商事の利益が急激に減少してしまっているのは2018年4月~2019年3月までの期間だということが分かります。利益にして58億円近く減少していますね。

図にすると以下の通りです。

売上の変動が大きい年に何があったのかを簡単に確認したところ、2016年~2017年の売上の変動はリペア事業のミニット・アジア・パシフィック㈱を完全子会社化、そして2018年~2019年の売上の変動はビジネスウェア、カジュアル事業の売上減少が大きな要素を占めていました。

しかし、利益の推移を見てみると、2016年~2017年の利益はほとんど増加していません。一方、2018年~2019年のビジネスウェア、カジュアルの売上の減少は利益の減少に直接結びついています。

このように見ると、スーツを着なくなるという日本のビジネスシーンの環境の変化が青山商事の業績に大きな影響を与えたように見えます。

ビジネスウェアの売上の低下は投資しているのに売上が上がっていないから

青山商事の利益の大幅な減少は、利益率が比較的高かったビジネスウェアの売上の減少が大きな要因でした。実際、ビジネスウェア事業の利益率の推移を確認すると、2018年~2019年は大幅に利益率が減少してしまっています。

この理由は、2018年~2019年にかけて、原価率が1%上昇したこと、販管費率が2%上昇したことにあります。

ビジネスウェア事業は約1900億円の売上があるので、原価率が1%上昇すると19億円、販管費率の2%の上昇は38億円の利益の減少になります。合計すると57億円の利益の減少なので、今回の青山商事の利益の減少の大部分がビジネスウェア事業の収益性の悪化が原因です。この収益性の悪化は、青山商事がビジネスウェア事業に投資をしているにも拘らず売上が上がらないという関係性からきています。青山商事では、スーツという「モノ」を販売する為、平均単価と販売数量に分けられます。

もう少し詳しく分解すると、スーツの販売量は、「店舗数×1店舗当たりの平均販売数量」もしくは「従業員数×一人当たりの平均販売数量」に因数分解できます。

売上の減少は、「平均単価が下がった」のか、「店舗数や従業員数が減った」のか、「店舗や一人当たりの販売数量が減少した」のか、どこに原因があるのでしょうか。要素ごとに分けて確認してみましょう。まず平均単価ですが、数百円程度ですが徐々に減少傾向にあります。

次に店舗数や従業員数。この数字は増加傾向にあります。

店舗数こそ2018年~2019年で減少しているものの、基本的には店舗縮小ではなく、拡大路線を取っているのでしょう。では1店舗当たり・一人当たりの平均販売数量はどうでしょうか。

青山商事のデータを見る限り、こちらも両方の要素において数値は減少し続けています。まとめると以下のような状況です。

ビジネスウェア事業を拡大しようと人や店舗に投資しているにも拘らず、販売数量が伸びず人件費や賃料が企業の利益を圧迫している。これが現段階の青山商事の利益の大幅な減少の要因になっています。

このような現状の中、青山商事の未来図は?

本業であるビジネスウェア事業は「店舗や人を増やしているにも拘らず、販売数量が減少してしまっている」という非常に厳しい現状である青山商事。今後はどのように事業を運営していくのかを確認してみたところ、2027年までにコア事業の売上を伸ばしつつ販売比率を60%に抑えてビジネスウェア事業から脱却するという意思を示しています。


http://www.aoyama-syouji.co.jp/ir/management/pdf/plan/plan180302.pdf

リペア事業のミニット・アジア・パシフィックの買収は、青山商事の目指すビジネスウェア事業編重からの脱却に位置付けられるのでしょう。しかし、2020年までちょうど残り1年となった現段階においては、ビジネスウェアの売上比率は73%と、目標の売上比率67%には届きそうもありません。

また、2020年までの投資額を見ると、確かにリペア事業にも9億円近い投資を行っているものの、ビジネスウェア事業の店舗リニューアルの影響から、30億円を超える投資を行っているのはビジネスウェア事業であることが分かります。


http://www.aoyama-syouji.co.jp/ir/library/presentation/2019/pdf/pr_2019q4.pdf

このような状況において、青山商事が当初予定していた目標を達成することは非常に難しいでしょう。ビジネスウェア事業においても、「ビジネスモデルを再構築する必要性がある」という旨の記述に留められており、1年で業績を回復させる有効な打ち手があるわけでもなさそうです。


http://www.aoyama-syouji.co.jp/ir/library/presentation/2019/pdf/pr_2019q4.pdf

スーツの需要が減り続ける現状は大きくは変わらないでしょう。そのような中で、ビジネスモデルを一体どのように再構築するのでしょうか。

高齢者に対してスーツ需要を喚起することは価値があるのではないか

難易度が非常に高いと思いますが、例えば高齢者に対してスーツ需要を喚起することは一定の需要があるかもしれません。

今後の人口推移においても、日本の人口構成の中で老年人口の数が唯一伸び続けています。この層はスーツを着ている方も多いですが、かなり古い型のスーツを着られている方が多い印象を受けます。スーツは日本では仕事着として認知されていますが、本来はドレスウェアであり、着る人を格好よく見せるための代名詞でもある衣装です。


https://parisiangentleman.fr/academy/petit-precis-de-style-napolitain-2/

特にこのようなブラウンのスーツなどはある程度年齢を重ねた方の方が似合う確率は高い。ビジネスウェアとしてのスーツを販売し続けることも重要ですが、スーツの位置づけを「仕事着」から「オシャレ着」に転換させることも一つのアイデアかと思います。びしっとスーツで決めて集会に行く姿などは非常に格好いいと思うのですが。

スーツをオシャレ着にするような生活様式を変えるレベルの提案は多大な広告宣伝をしなければなりません。例えば以前取り上げたJINSがJINSPCなどの視力矯正以外の市場を作った時には前年比で約14億円も広告費が増加しました。青山商事が同じように広告を打つとしたら14億円もの投資は回収可能なのでしょうか。

データ上、老齢人口は2020年時点で約3600万人。その内の1%に遡及できたとして約36万人程度です。この世代の方々は値段よりも質が重要でしょうから、青山の最高品質のイタリアのスーツを購入されるとすると、販売価格は約13万円。


http://www.aoyama-syouji.co.jp/ir/library/presentation/2019/pdf/pr_2019q4.pdf

売上の合計は468億円になり、非常に大きな売上となります。仕事でスーツを着ないという流れになっている市場を狙うよりも可能性も大きいような気がします。しかもスーツは利益率が大きいので青山商事の利益貢献にもなるでしょう。青山商事は事業名称を「メンズスーツ」から「ビジネスウェア」に変更していることから、スーツを今後も仕事着として販売していく事となるとは思いますが、このような狙いも面白いと思います。今後日本のスーツはどのような利用のされ方をするのでしょうか。青山商事の今後に注視しておきたいと思います。