シンプルなビニールレザーリュック。テッドベーカー「YOSHI」

ファッションにおいて「オシャレであろうとすること」と「機能性」を両立させることは、しばしば難しい問題です。とくにバッグにおいて、頭悩ませることが多くないですか?

例えば近年流行しているクラッチバッグは、オシャレの観点からすると、洋服とのバランスをとりやすい点では便利なアイテムです。しかし、容量や持ち運びやすさという面では便利とはいいがたいですよね。

逆に、容量と持ち運びやすさにおいては便利なのはリュックです。しかし、オシャレの観点からすると、そのカジュアルさゆえに“大人っぽいファッション”には不向きなものが多いのです。

しかし、リュックが必ずしもオシャレと両立しないものとは限りません。“大人っぽさ”を損なわないリュックはあります。その一例が、本稿でご紹介するテッドベーカーの「YOSHI」です。

 “ドレス”を感じさせる形、色、そして素材感

今回ご紹介するバッグは、「オシャレ」と「機能性」の両面においてすばらしい実力の持ち主です。まずは「オシャレ」の観点から見ていきましょう。

形:型崩れしない薄さ

実際にこのバッグを使う中で、筆者が感じている最大の魅力は、“薄さ”です。リュックがカジュアルに見える理由のひとつとして、モノが入った時に下部だけが不格好にふくらむ点が挙げられます。

まるで“しもぶくれ”のように、モノが詰まっているサマは、幼稚園児の背負うリュックサックであればかわいらしいですが、いい大人が背負っているサマは、まるで中年男性の下腹のようにだらしなく見えるものです。

このリュック、型がしっかりしており、モノを詰めても“しもぶくれ”になりません。元の薄型の形をきちんと保持します。まるでいっぱい食べても腹が出ない、ストイックなアスリートのような印象を想起させてくれるのです。

グレーがかったネイビーをベースに効果的なブラックの配色

リュックに限らず、ファッションにおいて“大人っぽさ”を確保するための定石は、「ブラックを選ぶ」ことです。カラフルなリュックは子供らしさ満点ですが、ドレス感のあるモノトーンであれば、子どもっぽさはずいぶんと低減されます。

ただ、リュックのブラックは、オシャレの面では“減点”こそありませんが、無難であるがために“加点”にもなりません。

このリュックのベースカラーは、ダークトーンであるネイビーにグレーが混じった落ち着いた色合い。そしてファスナー周りや取っ手の部分など、ポイントごとにブラックが効果的に使われています。ファスナーのジップの部分も、シルバーではなくブラックになっているあたり、行き届いていますね。

ネイビーとブラックの組み合わせ自体はさして珍しいものではないですが、とにかくこのネイビーの微妙な色合いが、全くないとは言えませんが、なかなかない色。差別化のポイントです。

ビニールレザーでありながらも上質な艶感

このリュックの表面の素材は、革ではありません。表記上は「ポリエステル50%、ポリウレタン50%」となっていますが、これは一般的に「ビニールレザー」と呼ばれるもの。

しかし「ビニールだから安っぽい」とは限りません。ビニールでも上質感があるものもあれば、革でも安っぽいものもあります。このリュックの場合、質感のある上品な艶があり、およそ素材感において、安っぽさは感じられません。それでいて、革ではない分コストは低減されており、30000円以下で購入可能です(税込定価2万3900円)。

あえていうならこのロゴですね。こんな露骨なブランド名の主張なんて、なくてもよかったのに、惜しい。でも、デカデカと記載されているわけではなく、むしろ素材の質感の中に埋没しているくらいの見え方なので、許容範囲内としましょう。

タウンユースにおいては十分な実用性

続いて、機能面について見ていきましょう。まずは緩衝性。背中側一面に緩衝材が敷かれていることで、バッグの中の荷物の位置を気にしなくてすみます。たとえば背中側にペットボトルを入れてもゴロゴロとした違和感がありません。また、肩ベルトも同様に緩衝材が入っており、荷物の負荷を軽減してくれます。

ただ、内部において緩衝材で保護されているのは、背中側のポケットの中だけです。なお、背中側のポケットはご覧のとおり、iPadがちょうどピッタリの大きさです。実測で縦28cm×横24cm。ノートPCはちょっと厳しいですね。

表側(人の目に触れる外側)には薄いサブポケットがついているからまだしも、側面と底面はノーガードです。つまり、ノートPCなどの精密機器をそのまま放り込むには不向きです。とはいえ著者は実際、ノートPCをふつうに入れて持ち歩いていますが、床にガンと置くこともないので、特に問題ないと判断しています。

続いて収納力について。筆者はふだん通勤時に使用していますが、ノートPC、PCバッテリー、手帳、A4サイズ資料、iPhoneバッテリー、ペットボトル(500ml)を入れて、だいたい7~8割くらい。買い物をするとパンパンになってしまいます。

以前に使用していた無印良品のリュックと比べると、収納力は若干落ちたかな、と思います。ただ、ふだん使いにおいて不自由はないです。

続いて、「自立」について。このリュック、荷物の詰め方をよほど雑にしなければ、ちゃんと「立つ」のです。これ、地味ですがとても便利。中から荷物を取り出す時に、へにゃっとしなだれかかってきたりしないし、カフェなんかでイスにかけなくてもポンと置くだけでよいし。単なるオシャレではなく、実用するものだからこそ、こうした地味なポイントが際立ちます。

そしてもうひとつ、機能ではないですが、実用性の観点でぜひつけ加えたいのが、リュック自体の軽さについてです。このリュックは1040g。無印良品のリュックなどと比べると若干重く感じられるかもしれませんが、本革のリュックに比べると相当軽いです。

リュックを求める時点で、ある程度の荷物を収容することが前提。そこにリュックそのものの重さが加わると、相当な負荷になってしまいます。リュックにおいて「軽いこと」は正義といえるでしょう。

革ではなくビニールレザーであるがゆえのデメリット

ここまで見てきたとおり、このリュックは本革ではなくビニールレザーだからこそのメリットが多々あります。しかし裏返すと、ビニールレザーだからこそのデメリットもあります。

ひとつは「傷」についてです。本革の場合、爪が当たるだけでも傷がついてしまいます。しかし傷がついても、それ自体が“味”となり、次第にそれもなじんでくるものです。

その点、ビニールレザーは爪を立てたくらいで傷はつきません。ただし、アスファルトの上にドンと置くような扱いを続けると、角のあたりから表面がボロボロとはがれてしまうそうです。そうなると補修は容易ではありません。一生モノになりうる本革製品と異なり、基本的に“別れが来るまで”のお付き合いです。切ないですね。

もうひとつは「伸びない」点。革は伸びますが、ビニールレザーは伸びません。それが、このリュックの収容力を落としている一因でもあります。ただこれは、リュックにどれだけの収容力を求めるか次第です。

シーズンごとにマイナーチェンジしています

http://urx3.nu/EHJF

今回ご紹介したのは「YOSHI」は2017年の春夏アイテムです。そして実は、2017年秋冬の新作が早くもリリースされています。毎シーズン、マイナーチェンジを重ねているとのこと。上掲の写真は今回ご紹介している「YOSHI」ではなく、新作の「FANGS」です。違いはわかりますか?

これが今回ご紹介した「YOSHI」

そしてこれが新作の「FANGS」です

http://urx3.nu/EHJF

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新作「FANGS」は、片側だけ側面にドリンクホルダーがついています。また、ファスナーの取っ手の形が変わり、ブラックの部分がグレーになっています。ベースのネイビー自体も、よりくっきりしたネイビーに近づきました。

なお、素材が「ポリ塩化ビニル100%」に変更されていますが、素人目には全くと言ってさしつかえないくらいに同じ印象です。また、裏地も「YOSHI」は綿100%モスグリーンだったのが、「FANGS」はボルドー。そして綿100%という点では同じですが、触感にスエード感があります。

それ以外の部分は特に違う印象はありません。サイズも同じで、幅が31cmマチ(奥行)11.5cm、高さ43cm(一番高いところ)です。「FANGS」はドリンクホルダーの分だけ若干カジュアル感が増したように感じますが、全体としての印象はほぼ変わりません。ベースカラーも好みでしょう。

「FANGS」の方が若干お高いですが、30000円以内であるところは変わりません(税込定価2万7250円)。筆者としては、「YOSHI」も「FANGS」もいずれもオススメです。

テッドベイカーは“大人”の遊び心を楽しめるブランドです

※掲載許可を得て撮影しています。

今回ご紹介したリュックは「テッドベーカー」というブランドの商品。このブランド名になじみのない方も多いかと思いますが、「表参道でエサを食べる犬のぬいぐるみの店」と言われたら、ピンとくる方もおられるのでは。

2017年2月に神宮前交番の裏に移転しましたが、変わらずあの犬はいました。ちなみにあの犬、「ラッセル」という名前で、イギリス本店に双子の兄がいるのだとか。

もともとシャツのブランドとしてスタートしており、本国イギリスでは“ポールスミスの廉価版”といった立ち位置だそうです。店内にはきれいめなだけではない、遊び心の利いたアイテムがずらりとラインナップ。“大人”がおさえておくべきブランドのひとつとして、オススメします。

EQ03

この記事を書いた人

EQ03

身長178cm 体重64kg 靴27.0cm

洋服を“食”と共に、「コミュニケーションを最適化するためのツール」と位置付けています。物産展マニア。国内外を問わず、地域・人に根差した物語性のあるモノ・コトに惹かれます。コーディネートはワイルドよりもきれいめを。