アパレル苦境の打開策は出店増? TOKYOBASEの決算の先を読む

コロナ禍のど真ん中、5月31日までの決算を発表したTOKYO BASE。4月7日から5月25日は、緊急事態宣言下にあり、1か月以上にわたって店舗での営業ができなかったこともあり、アパレルはどの企業も赤字に転落しています。このような未曾有の事態の決算は、企業の弱点をあぶりだします。TOKYO BASEの決算は最悪という事態には至りませんでしたが、複数の問題点が浮上しました。その問題点を解決する施策を考えてみます。

コロナ期間中の決算書は「特別損失」に表れる


https://ssl4.eir-parts.net/doc/3415/yuho_pdf/S100J8MV/00.pdf

四半期の売上高は24億円。前年の同期では36億円あったので、12億円の売上減少です。肝心の利益を分析するまえに、損益計算書の簡単な読み方を説明しておきます。

決算書には「5つの利益」が存在します。モノやサービスを販売したときの利益、「服を売った利益の合計」がわかる「売上総利益」、販売する時に必要な費用である販売員の人件費、テナント料、オンライン販売の送料なども含めた、「事業で得た利益」が分かる「営業利益」、借入金などの利息の支払い、投資などを行っていれば、その収益費用等も含めた、「事業運営以外も含めたトータルの利益」が分かる「経常利益」、そして、「その期間の利益」が分かる「税引前・税引後の当期純利益」です。事業の収益性を評価するときは、通常は営業利益、もしくは経常利益を確認します。

今期のTOKYO BASEは、売上が24億円で粗利が12億円、そして販管費が12億5000万円かかっているので、結果、営業利益はトータルで4000万円の赤字になっています。4月7日~5月6日まで1か月間まるまる店舗が営業できていなかったことを考えると、4000万円程度の赤字であれば、「よくこの程度で抑えたな」という数字です。

しかしながら、コロナ期の決算の場合は注意すべきことがあります。多くの企業において、コロナ期間中の店舗運営の費用(人件費やテナントの賃料)は、特別損失に計上されている点です。臨時休業等による損失とありますが、要は休業中の人件費などはこの特別損失に計上されるのです。つまり、実態として、今期の赤字は1億8576万1000円ということなります。

四半期に2億円弱の赤字と言うと大きい額に聞こえますが、TOKYO BASEはこの赤字を計上した2020年5月31日時点で、55億円以上の現預金を保有しています。つまり、TOKYO BASEはこのような災害に見舞われたとしても、それによってすぐ倒産に追い込まれることはない、ということです。

損益計算書を深掘りして現時点の問題点を把握してみよう

次に、TOKYO BASEの問題点を特定するために、もう少し情報を分解していきます。まずは売上から。売上を昨年の同期比で比較してみると、各ブランドの売上が減少してはいるものの、売上の最も大きいSTUDIOUSの売上が最も減少していることがわかります。UNITED TOKYO、PUBLIC TOKYOも売上は減少していますが、STUDIOUSの売上の減少幅は一段と大きいことがわかります。

その要因はECの売り上げ減少にありました。ブランドごとに店舗別の売上、EC別の売上に分解してみると、STUDIOUS、UNITED TOKYO、PUBLIC TOKYOの店舗売上はすべて減少。これは当然としても、ECは、STUDIOUSのECの売上だけが3%減少してしまっているのです。筆者は上場アパレル企業の決算書によく目を通していますが、多くの企業において、コロナ禍では店舗売上が大きく減少していても、ECの売上は大きく伸びている会社が多かったです。TOKYO BASE全体においても、STUDIOUS以外のECは大きな伸びを示しています。ECにとっては、コロナは追い風になり得ます。しかしなぜSTUDIOUSのECはなぜ伸びなかったのか? STUDIOUS特有の問題なのでしょうか。


https://ssl4.eir-parts.net/doc/3415/ir_material_for_fiscal_ym/83940/00.pdf

STUDIOUSは、SHAREEFやCULLUNI,ETOSENSといったクオリティの高いドメスティックブランドからセレクトしたラインナップで構成されています。また、自社ブランドの展開もあり、洋服のクオリティは非常に高いと言っていいと思います。ではなぜ、STUDIOUSのEC売上は伸びなかったのか? 筆者は、ECサイトのデメリットが顕在化したと考えています。

スマホ普及によって、購入単価が下落する現象

誰もが簡単にアクセスし、商品を購入できるECサイトですが、アパレル企業側からすると見過ごせない大きな傾向があります。それは、「スマホ利用者が増えると、購入金額が減少し、購入回数が増える」ことです。

上表はZOZOTOWNが開示しているデータを加工したものです。ZOZOTOWNの商品をスマホかPCで購入するかによって、購入単価が変化するのかを単回帰分析したグラフです。この単回帰分析の結果はR2=97.49。そして、その線形はy=4458.9x+8053.5。つまり、あくまでZOZOTOWN上での話ですが、スマホの利用率と購入単価の相関関係はほぼ相関の関係で、スマホ利用率が10%増えるごとに、平均450円弱購入単価が下がっていることがわかります。

少なくとも、日本においては、画面が小さくなるスマートフォンでの買い物が進めば進むほど、商品1点あたりの購入単価は落ちる、と考えていいでしょう。そのデータを頭に入れて今度はTOKYO BASEの各ブランド、各チャネルごとの商品の単価を見てみましょう。すると、STUDIOUSの店舗での商品販売の単価のみが突出して高い事が分かります。

つまり、STUDIOUSは、店舗での接客において単価の高い商品を販売できているものの、ECだとそうはいかないということです。STUDIOUSの商品は実に様々な部分がこだわり抜かれて作られているものが多いので、店舗スタッフにその商品のこだわりや良さを聞いて、試着をしてみて購入するということです。STUDIOUSが国内の感度の高いブランドのセレクトショップである以上、その良さを理解して商品を購入するには、ショップスタッフの力や試着が欠かせません。現在のECサイト、とくに小さいスマホの画面上ではその商品の良さは伝えきれないのだと思います。

とはいえ、TOKYO BASEのEC販売比率は高い

TOKYO BASEは実は、比較的EC販売の比率が高い企業です。コロナが本格化する前の2020年2月期の売上の比率を見てみると、37%がECでの売上となっています。


https://ssl4.eir-parts.net/doc/3415/yuho_pdf/S100IOLR/00.pdf

ただし注意すべき点は、TOKYO BASEはZOZOTOWNに大きく依存していることです。TOKYO BASEの有価証券報告書の「事業系統図」を見てみると、その系統図の中にZOZOTOWNがあり、TOKYO BASEの売上を伸ばすためには必要不可欠な存在であると考えていることがうかがえます。他企業と協力して業績を伸ばすことは何ら問題はないのですが、ZOZOTOWNをTOKYO BASEの集客装置として捉えた場合、ZOZOTOWNの顧客が変わっている点は見逃せないデメリットになり、非常に大きな影響を与えます。

このように、ZOZOTOWNは、毎年毎年、アクティブ会員の平均購入単価が下落しています。これは先ほど確認したとおり、「スマホ利用率が増加することによって購入単価が下がっている」という問題、そして「ZOZOTOWN自体が、単価の安い商品が好まれるようになった」という2点があります。

ZOZOはZホールディングスの子会社となり、PayPayモールとの連携等により、より多くの新規顧客を集めていく動きを見せています。そしてこの動きは、平均購入単価の下落を加速させていくでしょう。ZOZOの新規の顧客にとって、TOKYO BASEの商品は高価格であり、顧客になりづらくなってくるのです。

解決策は、国内のUNITED TOKYO、海外のSTUDIOUS出店加速か

さて、コロナでSTUDIOUSのECが伸びていないことがあぶりだされました。また、それは、ECの中でもZOZOTOWNに大きく依存している結果ではないかと思われます。では、今後TOKYO BASEはどのような対策を打っていけばいいのでしょうか。筆者は、自社ECの強化は必要ではあるものの、それ以上に、出店戦略が重要なのではないかと考えます。

改めてTOKYO BASEの売上構成を見てみると、依然としてSTUDIOUSの売上は半数近くとなり、重要なブランドであることがわかります。では、TOKYO BASEはSTUDIOUSのECを強化したり、国内で未だに出店できていない、首都圏のテナントに出店を加速させればいいのでしょうか。個人的にはそうは思いません。STUDIOUSの商品自体は非常にいい物が揃っていて、サイト自体も大きな問題点があるようには見えません。自社ECを強化しても、それが即、売上や利益に直結するということは、これまで分析してきたとおりないでしょう。

単純に、STUDIOUSは商品の単価が高く、そのラインナップ自体も百貨店に置いてあるようなものばかりです。特にSTUDIOUSは近年、高価格帯のターゲット層に絞り込みを行っています。それを考慮すると、海外進出の加速が現実的です。商品価格が高いということは、顧客数がそのまま少ないということになります。日本の20~30代の人口は約2700万人。そのうち、ファッションに興味があり、ラグジュアリーブランドなどの高単価な洋服でも購入しようとする層は多く見積もって5%、20人に1人だとすると135万人です。現時点で、STUDIOUSの商品の購入回数は平均で年25万回程度なので、この層にはある程度浸透していると考えられます。

つまり、日本においては今後、劇的にSTUDIOUSが伸びていくことは考えづらいといえます。一方、海外に行けばこの20~30代の層は劇的に増えます。ラグジュアリーブランドの層に手が届くような顧客も増えているでしょう。これらの顧客を狙って、海外進出を進めていくことが、今後のTOKYO BASEの基本戦略になるのではないでしょうか。


https://ssl4.eir-parts.net/doc/3415/ir_material_for_fiscal_ym/83940/00.pdf

では、国内では何に注力すればいいかのか? データ上は明らかにUNITED TOKYOの店舗出店を加速させることです。下記のデータは店舗売上と、有価証券報告書より推定した店舗の購入回数の重回帰分析です。

重回帰分析は、売上を複数の変数の束と捉えて分析するアプローチ方法で、今回は各ブランドの店舗購入回数を原因変数、売上を結果変数として回帰分析を行い、どの購入回数が売上に重要な役割を果たしているのかを追求する方法です。

重要なのは下の係数の部分。STUDIOUSの店舗の購入数、UNITED TOKYOの店舗の購入数、PUBLIC TOKYOの店舗の購入数のうち、最も数字が大きくなっているのがUNITED TOKYOで、最も小さいのがSTUDIOUSです。つまり、コロナ禍にある2020年3月~5月のデータも含めると、店舗の売上にもっとも影響を及ぼしているのは、UNITED TOKYOであり、STUDIOUSは最も売上に影響を及ぼしていません。これは言い換えると、STUDIOUSは国内ではある程度成長曲線が止まり、UNITED TOKYOはまだまだ伸び代があるということです。

コロナで現在多くのアパレル企業が苦境に見舞われています。各社店舗を閉鎖し、ECを強化しているなかで店舗出店は時代と逆行しているように見えます。しかし、アフターコロナとは言っても、コロナは永遠に続くわけではありません。感染症なので、いつかは収束します。その時に、空いた店舗にいい立地にいい条件で入ることは、非常に強い体制が整うことになります。

TOKYO BASEの財務状況を見ると、現時点では借入金と在庫が増えるという悪状況にはあるのですが、逆に種の蒔きどころだと思います。アフターコロナにおいて、今後のTOKYO BASEがどのような戦略を立ててくるのか、注視していきたいと思います。

やなぎば

この記事を書いた人

やなぎば

身長168cm 体重63kg 靴26.0cm

「オシャレわかんねぇよ!」と叫んでいた所MB理論と出会いオシャレさんを目指し中。友人の「オシャレになったねー!」の一言が今の原動力です。