【企業分析】アフターコロナを制するアパレルがユニクロである3つの理由

全世界に多大な損害を与えている新型コロナ。こと飲食店、旅行業界への影響は大きく、また、アパレルも多分に漏れません。しかし、ユニクロを擁するファーストリテイリングはダメージを見事に抑えこみ、その経営力の強さを見せつけています。2020年度第3四半期(2019年8月~2020年5月)の決算を紐解とくことで、立証していきましょう。

第3四半期の決算はコロナの影響を受け、非常に厳しい結果に


https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/20200709_results.pdf

まずは決算を見てみます。トップラインである売上は1Q~3Qの累計で前年比15.2%減。コロナの影響をもろに受けたQ3(2020年3月~5月)においては、前年比39.4%と、ほぼ40%も下落しています。その結果、Q3単体の営業利益が-43億円と、コロナの影響を受けた期間は赤字を計上しています。ファーストリテイリングといえどもコロナの直撃を受けていることがわかります。

このように損益構造としてみるとその影響は一目瞭然。売上が大幅に減少し、粗利(売上総利益)を稼ぐことができず、営業利益は赤字になっています。

この原因はもちろん、コロナによる来店客数の減少です。ファーストリテイリングにとっての第3四半期はコロナが本格化した3月、非常事態宣言や各国のロックダウンが行われた4月、そしてそれが明けてからの5月と、顧客が店舗で買い物を行う機会が著しく減っています。

(コロナ本格化や非常事態宣言の影響により、客数が前年比で大きく減少)

3か月の売上推移表を見てみると、客数が3月で67%、4月で39%、5月で68%程度と、大きく落ちこみました。ファーストリテイリングの事業の中心であるユニクロ事業はLifeWearをコンセプトに掲げているため、老若男女全体がターゲットです。客数の減少が他のアパレル企業と比べても大きいことがわかるのですが、しかし、視点を変えてみると、これだけ来店数が減ったにもかかわらず、営業利益を少しの赤字に留めています。

なぜ赤字をこの程度に抑えられるのでしょうか? もちろん商品が素晴らしく、オンラインの売上が伸びていることもありますが、筆者はファーストリテイリングの財務体質にその理由があると考えています。

値引きセール合戦にあってもユニクロは平常運転

この記事を執筆しているのは7月末時点で、街のアパレル店舗ではかつてない規模のセールが行われています。そのオフ率は50%~70%以上で、これは、キャッシュを早く回収したい企業の苦肉の策と言えます。一方、ファーストリテイリングは「大感謝祭」こそ、通常に比べて長い日数をかけていたものの、他の企業と比べて無理な値引きは行ってはいません。

では、なぜユニクロには余裕があって、他の企業は強烈な値引きをしなければならないのか? 「バーンレート」という指標を使って説明しましょう。バーン(Burn、燃やす)レートとは、文字どおり、企業がどれほどキャッシュを燃やしながら企業を運営しているのかわかる数値で、企業の資金が底をつくまでの猶予期間を指標として表すことができます。厳密な定義とは異なりますが、今回は比較のため、「保有現預金額/(四半期の営業損失+運転資金)」として、仮にこの状況が続くと、企業はあと何か月でキャッシュが尽きるのか調べてみます。

ますはファーストリテイリング以外の企業です。直近の決算状況においては、他の企業は最も長いTSIでも2.7か月、ユナイテッドアローズは1か月ぴったりの数値が算出されます。つまり、他の大手アパレル企業においては、このまま売上が立たず何の対応もしないと、数か月で倒産の危機に陥ります。

なんとかして現預金を確保する必要があるため、多くのアパレル企業は、大幅なセールを行ってでもキャッシュを回収しているのです。これが、コロナで売上の鈍ったアパレル各企業が現在大幅な値引きセールを行っている理由になりなります。

それでは、ファーストリテイリングのバーンレートを見てみましょう。なんとその期間は10か月。他企業と比べて運転資金が一桁多いにもかかわらず、この数値は驚異的といっていいでしょう。これはファーストリテイリングが有事に際しての資金を確保し続けてきたからに他なりません。このように数字面から見ても、ファーストリテイリングは、潤沢な資金を持っており、このままの赤字が経営危機に即直結するという心配は当面ないことがわかります。このような財務状況だからこそ、しっかりと自社の商品価値を維持したまま、販売を継続することができたのです。

柳井会長のメッセージから見るコロナが世界に与えた影響とは

さて、財務状況を確認できたところで、今決算発表時の柳井会長兼社長のコメントを見てみましょう。

柳井会長兼社長の会見で最も大きなメッセージ、それは世界が一つに繋がっているというメッセージです。グローバル化、デジタル化によって世界のあらゆる領域において一体化が進んだ。これまでの世界の構造が変わっていたことが、コロナによって明らかになったということです。世界はより繋がりを深め、1つの挙動が世界に大きな影響を与える可能性が高まっているということでしょう。

ファーストリテイリングは全てをデジタルやグローバル、ロボティクス、全自動化に変えていき、世界を更に繋げるという仕組みに作り替えようとしています。

目指すべきものは顧客志向、洋服を売るのではなく、あくまでもその先にあるものを売ろうとしています。そしてそのためのLifeWearのコンセプトです。これからは、自分にとって快適な服、格好よく思える服、そういった服が買われる時代になり、その時代にはLifeWearが最適であると考えられています。つまり、今後ファーストリテイリングはコロナによってはブランド戦略を大幅に変更する必要はなく、従来のコンセプトを推し進めていくであろうことがわかります。

筆者の主観ですが、洋服のコーディネートは基本的には「自分自身がどういう服を着たいのか」「誰と一緒にいるのか」だけではなく、「周りがどういう環境なのか」も重要だと思います。例えば、同じ友人と出かけるときにも「町に遊びに出かけるとき」「旅行に一緒に行くとき」「少しハイエンドな場に出向くとき」とさまざまなシーンがあります。そしてそのそれぞれで、しっくりくる服装は異なります。

現在、コロナの影響で、ビジネス上でもプライベート上でもオフラインな場ではなく、オンラインでの出会いが多くなっています。その際の場所は多くは職場、もしくは自宅。そして、自宅という環境下でなじむ服装こそ、LifeWearの洋服だと思います。そういう意味でも、これらの柳井会長兼社長の会見は非常にしっくりくるものがありました。

店舗はこれから購入時の満足を売るものに

さて、ファーストリテイリングは、コロナの影響こそ大きいものの、経営危機とは無縁で、今後もLifeWearのコンセプトを推し進めていくであることを見ていきました。では、このコンセプトに沿う店舗戦略は一体どのようなものなのでしょうか。それともオンラインを強化していくのでしょうか。

https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/faq20200709.pdf

ヒントは決算発表時の質疑応答に隠されていました。ここから読み取れる出店戦略は国内と海外で分かれます。基本的に国内店舗は「訪れる意味のある店舗」と、「買いやすい場所に手ごろなサイズの店舗」の2つに分かれるようです。


https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/20200709_results.pdf

訪れる意味のある店舗の代表格はこの3店舗です。公園を設け、最新のテクノロジーを駆使した店舗といった工夫を行っています。この中で最もLifeWearのコンセプトを体験しやすそうな店舗はStyleHintがある原宿店でしょう。


https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/presen200603_kusaka_jp.pdf

原宿店の最も大きな目玉は、店舗の壁面に設置されているディスプレイ。この壁面を埋め尽くすディスプレイは、様々な着こなしから、リアルなトレンドを体感し、着こなしを発見し、欲しい商品を購入する事ができるという設計になっています。


https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/presen200603_kusaka_jp.pdf

発信されたコーディネートが購入者に影響を与え、購入動向にも影響を与えていく。従来のモデルを使ったような商品単体の売り方ではない、「情報を商品にする」というファーストリテイリングの基本的な考え方が実現化した店舗の一つではないでしょうか。

もう一つの店舗設計は、近年明らかに増えてきている「駅ナカ」などにある店舗でしょう。東京駅周辺で検索しても、既に数店舗存在し、8月中にもう1店舗出店される予定になっています。


https://map.uniqlo.com/jp/ja

こちらはスキマ時間に試着ができるような店舗形態でしょう。近年ファーストリテイリングの物流は非常に改善されており、オンラインで購入しても数日以内に商品が配送されるという段階にまで来ています。恐らく、こちらの形態の店舗は今後商品を試着のみで、オンラインで決済、商品は翌日配送という形になっていくのではないかと考えます。

一方、海外店舗はまだまだ継続して店舗を出店していくようです。コロナ前は海外のユニクロ事業はものすごい勢いで業績を伸ばしていましたし、海外でも十分通じる力を持っていると考えられます。なりより大きな部分は、ほとんどのアパレル企業がトレンドに基づいて商品を作っているなか、ユニクロはベーシックなものづくりが原点にあり、他の商品と商品の設計が競合しない点にあります。


https://www.uniqlo.com/lifewear/jp/

質の高い定番の商品を、規模の経済をもって低コストで製造できる。この強みを前面に押し出していくと、まだまだ海外には販売機会が眠っていると考えられます。しかも、エアリズムやヒートテックと言った高機能商品は、人が服を着なくなるということはないので、需要を継続的に見込むことができます。

そのように考えると、コロナウイルスは非常に脅威ですが、ファーストリテイリングにとってはさらなる成長機会になり得るかもしれません。

他企業が店舗を撤退させていくなか、好立地に出店することも可能でしょう。いい立地と販売網、店舗網を構築していくと、世界一の座は思っていたよりも早くファーストリテイリングのものになるかもしれません。まだまだ予断を許さない状況ではありますが、ファーストリテイリングにとっては大きな勝ち筋を描く機会にもなり得ます。今後実際にこのコロナがどのような転機になるのか、注目してみておきたいと思います。

やなぎば

この記事を書いた人

やなぎば

身長168cm 体重63kg 靴26.0cm

「オシャレわかんねぇよ!」と叫んでいた所MB理論と出会いオシャレさんを目指し中。友人の「オシャレになったねー!」の一言が今の原動力です。