ユニクロのレディスでは過去に何度もコラボ展開している、フランスのファッションデザイナー、イネス・ド・ラ・フレサンジュ。このたび初めてメンズラインが登場したということで、大いに注目を集めています。
9月1日に販売開始したばかりなのに、9月3日時点で人気アイテムは早くも欠品続出。筆者も発売日に売場をチェックしたのですが、個人的に一番惹かれたのは、前評判の高いジャケットやコートではなく、このフランネルシャツでした。その魅力をご紹介します。
ネルシャツらしからぬドレス感のあるデザイン
筆者は以前、ユニクロの通常版の商品としての「フランネルシャツ」をレビューしました。1990円(+税)で、とてもコスパの高い良品であると思います。それに比べて、このイネス版の「フランネルシャツ」は1000円高い、2990円(+税)。
この1000円の差は何なのか。その差に1000円を支払う価値はあるのか。
筆者はあると思います。通常版とイネス版の違いは、「ドレス感のあるデザイン」。通常版も“大人が着るにふさわしいデザイン”ですが、イネス版にはそれ以上の魅力があります。それでは、その“ドレス”なポイントをひとつずつ見ていきましょう。
※ドレスとは?こちらをご参照ください。http://www.neqwsnet-japan.info/?p=1810
1つ目のポイントは、襟です。通常版は1枚で着てもサマになるボタンダウン仕様ですが、イネス版はドレスシャツと同様のレギュラーカラーです。
2つ目のポイントは、スッキリとした前身頃。具体的には、胸ポケットがなく、裏前立てになっています。
裏前立てとは、シャツの前端が裏側に折り返されているもの。メンズファッションのアイテムは、基本的にシンプルであればあるほどドレスに近づきます。
ちなみにこちらは通常版。「表前立て」と呼ばれる、ボタンダウンシャツでは一般的な仕立てです。
3つ目のポイントは、裾の脇には「ガゼット」と呼ばれる補強布。通常版にはないものです。オフホワイトの生地の中でここだけ赤い糸が使われていますが、ほんの数センチなので特に悪目立ちはしません。
実際のところ、現代の縫製技術であれば、この補強布がなくても布が裂けたりすることはありませんが、このひと手間を加えたシャツは高級品の証、と言われます。
4つ目のポイントは、背中側のデザイン。両肩の下にサイドプリーツ。これはレギュラーカラーでは一般的なデザインで、肩周りを動きやすくするものです。
ちなみに通常版はボタンダウン仕様なので、ボタンダウンシャツで一般的なセンターボックスでした。こちらも肩周りを動かしやすくする、という点では同様ですが、イネス版のサイドプリーツの方がよりシンプルに見える点でドレスライクと言えます。
ゆったりしつつも、きれいめのシルエット
このシャツのMサイズの肩幅は45cm、身幅は54.5cm。身幅が通常晩よりも0.5cm短いものの、ほぼ同じです。重ねてみても、正直なところ違いはわかりません。いずれのシャツにも共通して言えることですが、数字上はかなりゆったりしています。
しかし実際に着てみると、特にゆるさを感じません。体周りのゆったり感に対して、腕周りは細めに作られているので、だらしない印象はなく、きれいなシルエットです。
ただ、通常版は手首を留めるボタンが2つあるのに対して、イネス版では1つだけ。手首周りをタイトに締めることはできません。つまり、総じてゆるゆるではないですが、リラックスした着方を推奨されているようです。
なお、身幅のゆるさの割に、袖丈は60cmと短め。しかし数字上は短いものの、実際に着て腕を下ろすと、身長178cmの筆者の手首がすべて隠れる程度のちょうどよい長さ。これはひとえに、身幅があるからです。
つまり、袖の始点である脇の下が手首に近いため、袖自体は短くても足りるのです。これが意味するところは、“ふくふくした体型”の人が着ても、筆者のような細身の人が着ても、どちらにとっても着心地がよく、ちょうどよい長さの袖になるということです。
さすが“最大公約数”を掬い上げるユニクロのデザインです。
着丈はタックインで着ることも想定されている通常版と同様、Mサイズで75cm。一般的に見るとやや長めですが、ユニクロのシャツとしては一般的な長さです。「胴長に見える」という批判的な意見もありますが、脚の始点を隠すことにより、結果的に足長に見える効果がある、とも言えます。
通常版と同様に薄手の生地
生地は通常版と同様です。綿100%で、「フランネル」の最大の特徴である起毛感があり、ドレスシャツのツヤ感とは対極のカジュアルな生地感といえますが、秋冬にふさわしい温かみがあります。
ただ、都市生活に合わせてか、重ね着を想定してか、かなり薄手。最近急に涼しくなった東京では、夜であれば今からでも着られそうです。
フランネルシャツ、いわゆる“ネルシャツ”は本来的にはアメカジの代名詞とも言うべきカジュアルなもの。一般的なチェックのデザインの、厚手の生地のネルシャツであれば、ガシガシ洗濯して、そのまま羽織ればよいのかも知れません。
しかしこのイネス版のネルシャツは、通常版の無地のものと同様に、きれいめに着る方がサマになります。なので、洗濯に際しては乾燥機を使わずに陰干しにして、きちんとアイロンでシワを伸ばして着ることをオススメします。
ボタンが醸し出す強烈なカジュアル感
このシャツの魅力は、本来的に“カジュアル”の代名詞であるネルシャツをドレスライクに仕上げたデザインにあります。ドレスライクなデザイン及びシルエットと、秋冬ならではの季節感のあるカジュアルライクな生地。そのハイブリッド感こそが、他にないこのシャツの魅力です。
しかし、ボタンのクオリティが、そのバランスにかなり揺さぶりをかけています。率直に言って、チープ過ぎる印象。
デザインがシンプルであればあるほど、ボタンの存在感は際立ちます。しかも比べてみると、通常版よりもイネス版のボタンの方が1mm程度ではありますが、サイズが大きいのです。
「ユニクロだからボタンがショボい」わけではありません。最近のユニクロのボタンのクオリティには目を見張るものがあり、例えば同じイネスコラボのアイテムでも、「コットンツイルシャツ」などはツヤ感のあるボタンを用いているのです。カジュアルアイテムであるネルシャツの“らしさ”を強調したかったのか……。謎です。
イネス版のネルシャツは4色展開。筆者が選んだオフホワイトのほかに、ベージュ、オレンジ、ネイビーがあります。ネイビーであれば、このボタン問題はかなり軽減されます。ボタンが生地とほぼ同色であるため、ボタンが悪目立ちしません。
ちなみに通常版のネイビーとイネス版のネイビーだと、イネス版の方が黒に近い濃い色味で、より大人っぽい印象です。
筆者は敢えて、ボタンの目立つオフホワイトを選びました。コートを筆頭に、ダークトーンなアイテムが増える季節に、コーディネートのメリハリをつけるのに役立つような、明るい色のシャツが欲しかったからです。その点でオフホワイトの程よい白さは、ドレス100%の白シャツにはない、秋冬ならではの温もりのある印象を醸し出しているのです。
一方でベージュやオレンジも生地の色味自体は決して悪くないのですが、チープ感のあるボタンが黒いため、生地との色の差がより大きく、より悪目立ちすると感じました。
このボタン問題の対処法は3つ。ひとつはコーディネートで他のアイテムをドレスに寄せることでバランスをとること。ひとつはニット等で隠してしまうこと。
ただしせっかくのドレスライクなデザインが見えなくなるのは残念なところです。そしてもうひとつは、お直しでボタンそのものを換えてしまうこと。貝ボタンと言わずとも、不要になったシャツのきれいめなボタンと換えるだけでもよいのでは。
ちなみに筆者はこの第3案(ボタン交換)を検討中です。
店頭にはまだ並んでいます!
2017年9月3日21時現在、全サイズそろっているのはオレンジのみで、その他の色はほとんどのサイズが欠品状態。しかし新宿ビックロでは、9月3日20時時点では、まだ全色全サイズありました。
本レビューでは、ボタンについてかなり辛い評価をしてしまいましたが、それでもなお、このシャツは魅力的であると筆者は評価してします。近くにイネス版の取り扱い店舗のない方は、取り寄せも含めて、早めのご検討・ご決断をオススメします。