【企業分析】ユニクロが発注している謎のOEM会社「マツオカコーポレーション」の実態とは?

ユニクロ擁するファーストリテイリングは、誰もが知っている日本を代表するアパレルのSPA企業です。SPA企業とは、自社で洋服の企画、製造、販売を一貫して行う企業のことで、セレクトショップのようにブランドから洋服を仕入れて販売しているわけではありません。すべて自社の企画で製品をつくって売っています。


https://www.fastretailing.com/jp/group/strategy/uniqlobusiness.html

しかし、いかにファーストリテイリングと言えども、「製造」については、自社で工場を保有しているわけではありません。生産は外部工場に委託し、洋服を縫製してもらっています。


https://www.fastretailing.com/jp/group/strategy/uniqlobusiness.html

そして、この委託先のなかにマツオカコーポレーションという日本の上場企業が入っているのです。


https://www.matuoka.co.jp/

このマツオカコーポレーションは、ファーストリテイリングにとっても重要な企業です。ファーストリテイリングの有価証券報告書にも、「営業上の取引関係維持のため」として、10億円近い株を保有しています。


https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/yuho201808.pdf

ユニクロの服作りに欠かせない企業といっていいでしょう。こういった他社ブランドの製品をつくるOEM会社というのは基本的に裏方です。アパレルで上場しているOEM会社も多くはなく、その実態は謎に包まれています。そこで、今回はそんなマツオカコーポレーションのビジネスモデルや経営成績を通して、OEM会社がどのようなものなのかを見ていきたいと思います。

OEM会社のビジネスモデルとマツオカコーポレーションの特徴


https://www.nomura.co.jp/onlineservice/netcall/writing/pdf/ipo/3611_171109.pdf

一般的にOEM会社は、企画や販売経路はあるものの、素材の仕入れや縫製をする能力を有していない企業に対して、素材の仕入れや縫製加工を代わりに行うというものです。マツオカコーポレーションも、メインになるのは縫製加工です。しかし、マツオカコーポレーションが他の日本のOEM会社と比べてユニークなのは、他に先駆けて1998年に国内の工場を完全に閉鎖したところ。

現在は日本には本社機能やサンプルを確認してもらうような機能を残し、製造に関わる部分は海外の工場が中心になっているのが分かります。


https://www.nomura.co.jp/onlineservice/netcall/writing/pdf/ipo/3611_171109.pdf

人件費や賃料などのコスト問題、いい材料を安価に仕入れる必要のあるOEM会社としては、非常に合理的な選択だと言えるでしょう。というのも、OEM会社は非常に利益が薄いビジネスモデルだからです。

OEM会社はめちゃくちゃ薄利?

OEM会社のビジネスモデルを確認すると、基本的には消費者に対する販売機能を有していません。そのため、作った洋服は、基本的にはアパレルメーカーに販売することとなります。


https://contents.xj-storage.jp/xcontents/AS08124/69fa3c0d/f1bd/41d6/91c2/980643428e0e/20190219154517207s.pdf

アパレルメーカーはOEM会社から洋服を購入後、自社の利益も載せて商品を販売するので、OEM会社に商品製造のコストを下げることを求めてきます。実際にマツオカコーポレーションの粗利率を確認すると、わずか15%。ここから、OEM企業は薄利のビジネスであることがわかります。薄利多売のビジネスモデルはあまり儲からないことも多いですが、マツオカコーポレーションのようにある程度の条件を満たせば、利益はちゃんと生み出すことができています。

では、このような利益を確保する為にはどのような条件が必要なのかを会計的な側面から見ていきましょう。

薄利でも利益が出るかは変動費と固定費の関係にあった

会計には、経営を分析する際に費用を2種類に分けることができます。売上に比例してかかっていく「変動費」そして、売上に比例していかない「固定費」です。

洋服を製造する工程では、材料費などは変動費、縫製する人の人件費は固定費になります。売上から変動費を引いた利益は貢献利益と呼ばれます。文字通り、「営業利益に貢献する利益」です。この貢献利益から固定費を引いて、残った利益が営業利益と呼ばれます。

この中でも、変動費は非常に重要な概念で、仮に売上が同じであっても、変動費率が高いと赤字になる可能性まであるのです。

左側の損益構造はハイブランド。そして右がマツオカコーポレーションを想像して頂くと分かりやすいかもしれません。ハイブランドには値段に「ブランド価値」がプラスオンされているので、変動費率は低くなります。結果、少ない洋服の販売でも利益が出ます。一方、マツオカコーポレーションのように縫製を委託されるだけではブランド価値は乗せづらい。そのため、売上を増やしていかないと利益を生み出すことができないのです。

具体的に言うと、この両者の利益を同額にしようと思うと、右のモデルは約5倍近く売上をあげなければなりません。

安くものを販売するときには、必ず多売できる条件がそろっていることが重要だという事です。これが簡単な変動費と固定費の関係です。では、マツオカコーポレーションはどうなのかを確認してみましょう。

マツオカコーポレーションは薄利だが多売で儲けるビジネスモデル

マツオカコーポレーションを見てみると、変動費が売上の8割近くを占めており、非常に大きい割合になっています。マツオカコーポレーションも変動費が大きい薄利のビジネスですが、多売する事ができているためしっかりと利益を上げていることがわかりますね。

マツオカコーポレーションはどれだけ多売しているのかというと、1年で実に約6000万枚以上もの洋服を製造販売しています。1日あたり約17万枚近くの洋服を製造しています。また、販路にユニクロがありますので販売も比較的安定しています。

マツオカコーポレーションの売上比率を見てみると、ユニクロは直接販売が2割、東レから流れる間接売上も含めると5割近くになるそう。徐々に比率は減少していっていますが、現状はユニクロが大きな売上を占めていることが分かります。このように、現状、マツオカコーポレーションは大量に製品を製造する能力を有しており、その製造した商品を販売する先も重要な企業を抑えている為、安定して利益を上げることができているのではないでしょうか。

マツオカコーポレーションの今後の課題とは?

今後の課題はユニクロ以外の販路の拡大と、それに対応できる生産能力の増強でしょう。現状非常に安定しているとは言え、売上の5割がユニクロに対する売上ですと、仮にユニクロに契約を打ち切られた場合に非常に危険です。そのため、マツオカコーポレーションは他の海外大手SPAなどにもその販路を開拓しようとしていっています。

(社長インタビューより:

https://www.sankeibiz.jp/business/news/180104/bsc1801040500005-n1.htm

世界的に見ると人口はどんどん増加しており、世界市場はどんどんと拡大していっています。そのような中でこれらの大手海外SPAを顧客にすることができるとすると、マツオカコーポレーションにとっては大きなチャンスです。

ただし、その際にライバル会社になってくるのは世界的なOEM会社でしょう。この中で最も大きな企業は「crystal international group limited」。香港の世界No.1縫製企業で、2018年度の売上は日本円換算(1USD=107円換算)で約2670億円と、マツオカコーポレーションの4倍近い売上を誇ります。

https://www.crystalgroup.com/

世界を見ると非常に大きな相手ですが、今後大手のSPA(ZARAやH&M)の受注を獲得していこうとすると、今後ぶつかっていくような企業になります。

これらの企業と比べると、マツオカコーポレーションは工場の規模や生産体制は劣っています。そのため今後生産能力の増強は必須といえます。マツオカコーポレーションは、今後はベトナムなどを中心に、工場を拡張していく予定のようです。課題は明確に見えていますが、マツオカコーポレーションは、生産能力の強化し、このようなライバル企業を抑えて、大手のSPA企業の受注を獲得することはできるのでしょうか。

今後も日本を代表するOEM企業として、今後も注目したいと思います。