「なんだこの靴!?」
それが第一声でした。
まるでアディダスの「SUPERSTAR」とコンバースの「ALLSTAR-HI」が合体したようなデザイン。どうなってるの……!? その感想は半分が正解でした。
このスニーカー、実はY-3が「SUPERSTAR」を元にリビルドしたものだからです。
今回は、筆者が衝撃のもとに衝動買いしたこの逸品スニーカーをご紹介します。すこし長いですが、最後までお付き合い頂けると幸いです。
レトロでハイテクなデザイン
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「おれは ローテクシューズを手にとったと思ったら いつのまにかハイテクスニーカーだった」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが おれも 何をされたのか わからなかった…
いきなりですが、このスニーカーの下半分はローテクスニーカーと言っても過言ではないでしょう。アディダスが1970年に発表した名作「SUPERSTAR」。
それと同じデザインのパーツがトゥとソールに使われています。
上半分、アッパーは様々な素材で出来ています。ネオプレン、スエードレザー、スムースレザー……ネオプレンは合成ゴム素材です。耐熱、耐寒性に優れ、強度もあります。
実は1930年代には実現しており決して新しい素材ではありません。しかし近年モードブランドがこれに着目しました。どう見ても人工物にしか見えないネオプレンは、ハイテクなスポーツアイテムの素材にぴったり。
こうして、フューチャーライクな「PRO-ZIP」にも採用されています。
続いてスエードレザー。革の裏側をヤスリで削り起毛させたものを指します。つまり、天然繊維。人工的なネオプレン素材と天然繊維のスエードレザーとを配すことによって、表情に面白みが表れています。
これ、面白い試みだと思いませんか?
毛羽立った天然素材が、ネオプレンのハイテクなムードをより盛り上げているのです。このような素材の遊びを楽しめるのもY-3の魅力ですね。
そして、スムースレザー。革の表側をなめらかに加工したものを指します。革の表面がしっかりと見え、風合いが楽しめます。
こちらは2本のジップで挟んだシュータントップ(タンの上部に配した部位)に使われています。硬質的なジップとの対比を狙った意図を感じます。この靴は本当に見ていて飽きさせない名作です!
続いて内部。
ヒールガード(内側カカト部の強度を上げるパーツ)はスエードレザー。着用時に負担がかかるため強度のある素材が使われています。インソールトップはスムースレザー。
Y-3のロゴが型押しされ着用の気分を盛り上げてくれます。
ほか内部全体もネオプレンの裏地で覆われています。耐熱、耐寒に優れたこの素材。通年の着用を想定して作られていることがわかります。
ミッドインソールも、EVAミッドソールを採用。柔軟性に優れ、足にしっくり馴染むソールです。当然、歩行も快適。
スムースレザーのシュータントップは取り外しもできます。これにより、2wayでの使用が可能に!ハイカットのレースアップスニーカーとしても楽しめるのです。これはオイシイ。
レザーパーツを外すと「レトロ」感が増し、「革新」な印象が和らぎます。
記事の最後ではレザーパーツを外した状態でのコーディネートを載せました。そちらもお楽しみに。
元ネタと比べてみた
元ネタ、アディダスの「SUPERSTAR」と並べてみました。
こちらは2015年発売のオリジナルモデル。「SUPERSTAR 80’s Vintage Deluxe」1980年代当時のスーパースターを復刻したことで話題になりました。現行モデルより、硬く重いレザーが使われ、表面は淡いクリーム色。
これによりスーパースターのもつ「レトロ」感を盛り上げ、着こなしに奥行を持たせるようになっています。
サイズはどちらもJP26.0。では比べてみましょう。
まず、外観から。前述のとおりシェルトゥ、アウトソールは同じですね。
「PRO-ZIP」のシェルトゥも「Vintage Deluxe」と同じクリーム色をしています。「PRO-ZIP」の下半分が1980年代の色調と同じ「レトロ」で構成されていることがわかります。
後ろから。まるで違いますね。
「SUPERSTAR」はアディダスロゴに対し、「PRO-ZIP」はもはや別物。特徴的なY-3ロゴが目を捉え、よく見るとスエードレザーのカカト部、人工的なネオプレンが入ってきます。
スニーカーの印象はアッパーでこうも変わるのですね。
そしてアウトソール。サイズはどちらもJP26.0cm。
ここでも全く同じレトロなソールを使っていることがわかります。
ちなみに、私の足は実寸25.5cm。足の幅はふつう。足のむくみも想定してワンサイズ上の26.0cmのサイズをアディダスやナイキでは選んでいます。ナイキのコルテッツのような幅が狭いモデルは26.5cmを選んでいます。
もうひとつ余談を。カカトに見えるのはシューグー。透明なシューグーを予めアウトソールに盛っておくとソールの磨り減りを防げます。
つまり、高級スニーカーでも気負わずガンガン履けちゃいます。このテクニック、効果絶大ですので、ご存知でなかった方は是非試してみてください。
重さはご覧のとおり。どちらも400g超と意外と重量があります。どちらもレザーを使用しているからですね。
着用感は「PRO-ZIP」に軍配が上がります。ふかふかなインソール、キック性の高いネオプレン素材とそもそも快適仕様にできているためですね。さらに、ハイカットのため足首にかけて負担が分散されるので、歩行時に意外と重さは感じません。
サイズ感はどちらも変わらず。同じアウトソールを使用しているので当然ですが。オンラインでの購入を検討されている方はご参考までに。
そもそもY-3ってどんなブランド?
ちょっと長くなりますが、このブランドの歴史についても触れさせてください。
Y-3……筆者が考えるこのブランドのキーワードは「黒」「革新」「スポーツ」
ご存知、ヨウジヤマモトとアディダスのコラボブランドです。2002年発表。始まって15年と、10年続くブランドは稀有であるファッション界において確かな歴史を築き上げています。
では、ここで協業している両者をみてみましょう。
まず、ヨウジヤマモト。
キーワードは「黒」「革新」。1972年に設立。1981年に当時タブーとされていた黒を全面に押し出すというショーをパリにて展開。これは”黒の衝撃”と称されファッション界に一大影響を与えています。
特徴は、身体と服の間にゆったりと空気をふくむようなシルエット。これに黒を基調としたコレクションを続け、今日、日本が誇るハイブランドの一つとして広く認知されています。
つづいてアディダス。
キーワードは「スポーツ」「レトロ」。歴史は古く1949年ドイツにて設立。テニスシューズのスタンスミス(1965)、バスケットシューズのスーパースター(1970)は、説明不要ですね。2015年前後、日本でも大ブレイクした逸品です。
60~70年代のアスリートのニーズから起したデザインが、このブランドの大きな特徴となり、今日に至っています。そのせいか、アディダスの製品には、どことなく懐かしさを感じられます。
以上両者の協業により誕生したY-3は「黒」「革新」+「スポーツ」「レトロ」の要素を持っています。ご紹介している「PRO-ZIP」はこの4要素を併せ持った稀有なアイテムです。
ちなみに補足を。現在のY-3にて「レトロ」要素が表れているアイテムは一部を除きありません。一部というのは、アディダスのアーカイブからのリメイク商品。
スタンスミスのリメイク「STAN-ZIP」と今回紹介している「PRO-ZIP」です。
街で履くならこんなふうに
トップス UNIQLO/パンツJean-Paul GAULTIER古着/スニーカー Y-3/アクセサリー SEIKO Vintage,MB
「PRO-ZIP」の持つ「黒」「レトロ」「スポーツ」3要素を各アイテムで拾ってみました。レザーパーツを外し、レースアップ仕様にしたことで「革新」要素を薄くしています。
まず、スウェットトップスで「スポーツ」。ハイブランドでなくたっていいんです。
続いて古着のシワ加工スラックスで「黒」「レトロ」を拾ってみました。
シャカシャカ素材のレトロ感がスニーカーの現代的なアッパーと対照的で面白いかと思います。腕周りで更に「レトロ」を強化。メタルバンドの時計を選ぶことでカッチリめに印象を調整。全体をモノトーンで揃え、すっきりとした大人のスポーツMIXコーデに。
レトロアイテムが好きな筆者はこんなコーディネートが大好きです。
もし、レザーパーツをつけるのであれば、「革新」要素が増します。筆者ならその場合、時計を「Applewatch」に変えるか、トップスを止水ジップなどの装飾のついた「ハイテクなデザイン」のものに変えます。コーディネート全体に「革新」的な雰囲気を与え、「レトロ」とのMIX具合が楽しめるでしょう。
コーディネートにあわせて「PRO-ZIP」の持つ要素を調整する。そしてそれと共通するアイテムを全体に散りばめる。すると全体に一体感が生まれ、今までになかったオシャレが楽しめる。
こんな遊び方ができるスニーカー他にありますか?
奇抜な見た目だけで終わらない。「黒」「革新」「レトロ」「スポーツ」「PRO-ZIP」は、これら4つの要素がMIXした名作と言えるでしょう。
ちなみに今回ご紹介した「PRO-ZIP」は2016AWモデル。残念ながら公式オンラインショップでは売り切れています。
しかし幸いにも2017SSはオールブラックモデル。2017AWはホワイトモデルが展開されています。どちらのモデルも仄かに漂う「レトロ」感は健在。
お召の洋服群とあわせてご検討されてみてはいかがでしょうか。