【企業分析】ユニクロがZARAを超える日はくるのか? 鍵は在庫の回転日数にあり

ZARAとユニクロは同じファストファッションの土俵で語られることが多いのですが、商品コンセプトはまったく異なります。ユニクロがベーシックを追求するのに対して、ZARAは常にトレンドフォローです。同じSPAというビジネスモデルで世界のトップを争う2社ですが、直近の決算期ではZARAを擁するインディテックスの売り上げは3兆2000億円、対するユニクロを擁するファーストリテイリングは2兆円です。その差は開くのか、または埋まっていくのか? 財務状況から筆者は「その差は埋まる可能性が高い」と判断しました。


https://www.fastretailing.com/jp/


https://www.inditex.com/

ユニクロが提供する商品はLIFEWEAR。ZARAはトレンド最前線

いったいその理由とはなにか? まずは服の特性から見ていきましょう。ユニクロの服は長く着ることができる定番品と消耗品の両方があります。前者の代表がニット類で、後者が「エアリズム」や「ヒートテック」です。その他にもデニムなどコスパの高い定番品は数多く存在しています。また、定番品が多いわりには、定期的に値引きを行っています。一方、ZARAは毎期デザイン性の高いアイテムを提案していて、定番品はほぼありません。店舗における洋服の回転率が非常に早く売り切ってしまう商品が多いので、ネットで良品だと紹介されてもすでに売り切れていることが多いです。この違いはそのまま財務数値に表れます。


https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/20191010_yanai.pdf

ユニクロは「LIFEWEAR」「究極の普段着」を謳っています。常に世界中の最先端のトレンドを収集してはいるものの、そのトレンドを最速で採用するのではなく、洋服の開発に長い期間を掛けながら究極の普段着を作り上げます。大量生産でコストを下げ、コスパのいい商品を開発しているのです。


https://www.fashion-press.net/collections/gallery/52535/905455

対するZARA擁するインディテックスが提供する商品は非常にトレンドフル。商品開発の期間は超ショートスパン。当然、商品を作る量自体は少なく、単価は上がりやすく、商品の素材感はユニクロに劣ります。また、商品が常に入れ替わるため在庫がなく、しかし、デザイン性とトレンド感はユニクロではお目にかかれない鮮度のものばかりです。共に世界中で受け入れられているアイテムを提供しているものの、そのコンセプトは真反対と言っていいでしょう。

最も違いが表れるのはPLの粗利率とBSの在庫回転日数

企業の財務諸表には一年間の損益を示す損益計算書(PL)と、今までの投資や調達、回収の結果を示す貸借対照表(BS)という財務諸表があります。PLは下記のグラフの通り、売上(ブルー)から費用(オレンジ)を引き、利益(グレー)が出てくるという構造です。

特徴は利益(グレー)がいくつかある所。これによって、複数の視点から利益を確認する事ができます。今回見るのは最初の「商品を販売した時の利益はいくらか?」を見ることができる売上総利益(粗利)という利益です。

 

ユニクロは定番品を大量に作り、頻繁にセールを行っています。一方、ZARAはトレンドフルなデザインを少量多品目でつくり、早く売り切ります。セールも大規模なものは夏と冬と、セール回数が少ない傾向にあります。このような特徴を持つ両社は、粗利率はどのような違いが出るでしょうか。

トレンドの商品を作っているZARAのほうが、定番品を多く作るユニクロより粗利率が高いです。ファストリは49%、インディテックスは57%と、実に8%も差が出てきます。実はこれが、企業の業績に大きなインパクトを与えます。

ファストリとインディテックスは同じSPA(洋服を製造して、店舗で小売り)という大枠のビジネスモデルは共通しているため、事業運営にかかる費用は大きくは変わりません。その結果、一年間企業を運営したときに得られる利益である営業利益はファストリが11%。インディテックスは17%。6%の差がついている計算になります。

この営業利益の差の大部分は粗利率の違いですね。このように、定番品を長く販売するためセールを頻繁に行う必要があるユニクロとトレンドアイテムを短期間で売り切るZARAの戦略は、財務諸表にも大きなインパクトを与えます。

在庫回転日数とは、「仕入れた商品が何日で販売されるのか?」を見るための指標

次にBSを見ていきましょう。BSは企業の「投資、調達、回収の結果」が現れます。この投資には企業の商品への投資も含まれており、ファストリのBSを見てみると、棚卸資産という商品を意味する科目が2019年期の末で4105億円あることがわかります。


https://www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/tanshin201908_4q.pdf

在庫回転日数とは、この商品が何日で販売されるのかを見るための指標です。この日数が短ければ短いほど、商品は仕入れて(もしくは作って)すぐに販売されているということになります。そしてここにも、定番品を長く売るユニクロと、トレンド品を素早く売り切るインディテックスの違いが表れてくるのです。

 

ファストリは定番品を長く販売し続けるため、在庫を約4.2か月かけて販売します。一方、インディテックスは在庫を2.9か月程度で販売します。トレンドを扱うZARAなどでは、一年経つともうその商品は古くなってしまいます。ユニクロのように4か月も売れるのを待っていると季節が変わり、もうその商品は売れなくなってしまいます。そのため、商品を2.9か月という非常に短いスパンで売り切る必要があるのです。ファーストリテイリングは定番品を多く作っているため、在庫の滞留日数が長くなりがちだとは言え、この指標は改善の余地があるでしょう。

情報製造小売業達成は、世界一に手が届くための一手になるか

ファストリとインディテックスの粗利率と商品回転日数の2つの指標で比較しました。ユニクロがいま発信している「情報製造小売業」というコンセプトは、まさにこの在庫回転日数を縮めるための秘策だと考えられます。

ファストリはECを「モノづくりの起点」にしようとしていますが、それはデータによって莫大な顧客の購買情報を分析することができるからです。そして、その分析の結果を商品やマーケティング、商品計画や生産、物流に反映し、顧客を起点とした小売業になることを目指しています。

本当に欲しい服が欲しいときにあって、すぐに買える状態を作ろうとしています。つまり、この情報製造小売業とは、顧客の求めているもののみを売るということ。財務的に見ると、当然在庫の回転率は速くなり、ファストリの在庫回転日数は短縮していきます。では、「情報製造小売業」が成功し、仮にファストリの在庫回転日数を、インディテックスの在庫の回転日数と同じくらいの日数に近づけることができれば、一体ファストリの業績はどのようになるでしょうか。

損益構造の基本構造が変わらないという仮定の下ですが、このように、ファーストリテイリングの業績は大きく伸びることが想定されます。そして、この在庫の回転日数に近づけることができれば、ファーストリテイリングはインディテックスに肉薄する経営成績をおさめることができるようになります。

もちろん、インディテックスもまだまだ成長中の企業ですので、ファーストリテイリングの売上が3兆円を超えたタイミングではさらに大きな売上の伸びを記録しているかもしれません。しかし、情報製造小売業が実際に機能するようになると、ユニクロがZARAのように定番品であっても素早く商品を売り切ることができるようになります。それはユニクロが世界一の座を手中にする日ではないでしょうか。今後も両社の動向に注目したいと思います。

やなぎば

この記事を書いた人

やなぎば

身長168cm 体重63kg 靴26.0cm

「オシャレわかんねぇよ!」と叫んでいた所MB理論と出会いオシャレさんを目指し中。友人の「オシャレになったねー!」の一言が今の原動力です。