【企業分析】前澤退任後のZOZOに復調の兆し

ZOZOがYahoo!JAPANを擁するZホールディングスに株式を売却後、初めての決算を迎えました。印象的なのは、商品取扱高は伸びても利益が減少していることです。また、さまざまな施策を打っているにもかかわらず、会員数も頭打ちに。しかしながら、Zホールディングスの子会社になることで、その問題を一気に解決できるかもしれません。今回は、その打開策に着目してみましょう。

まずは財務をチェックします。ZOZOはZOZOTOWNというプラットフォームを運営していますが、その商品の取扱高は毎年増加し続けています。商品取扱高は順調そのもののように見えますが、損益構造を確認してみると、営業利益率が少なくなっています。

例えば上図は、3年前と直近の損益構造ですが、商品取扱高は伸び続けていますが、事業における利益を表す「営業利益」は3年前よりも減っています。損益計算書の一番上に記載される売上高、トップラインが伸びているにもかかわらず、営業利益が減少しているのは、まさに今、ZOZOが抱えている宿痾です。これはおそらく、販管費の増大が原因だと考えられます。詳しくみていきましょう。

販管費の内訳を確認してみると、ZOZOSUITの配布や大会のタイトルスポンサーを務めたPGAゴルフツアートーナメント「ZOZO CHAMPIONSHIP」にかかった広告宣伝費以外にも、さまざまな費用が増加しています。なかでもとくに問題なのは、人件費と荷造り運賃の上昇です。ZOZOの販管費の増加は、事業を運営するために必要な費用が増えています。

市場環境の変化でコストが膨らむ

ただし、これはZOZOのせいではありません。ZOZOが開示しているデータから、一回の出荷当たりの費用が増加していることがわかります。2016年12月31日では平均394円。2019年12月31日時点では平均560円と、3年間で約165円も増加しています。これは2017年にヤマト運輸が配送料を値上げした影響が大きいでしょう。ZOZOは年間の商品出荷件数は1000万件近くあるので、単純計算で1件当たり165円の増加は、16億円近くのコストアップにつながります。ZOZOにとってはかなり痛手です。

というのも、ZOZOはあくまでプラットフォームであって、勝手に商品の値上げをすることはできません。そのため、配送単価の上昇は、ZOZOの利益を圧迫します。人件費も年々増加しているため、ZOZOは同じ額の利益を稼ぎ出すために、より多くの顧客を獲得し、より多くの売上を上げるしかないのですが、顧客の伸びは頭打ちになっています。ZOZOは、前澤前社長の下、ZOZOSUITに始まりZOZOARIGATOやZOZOCARD、MPS事業など、さまざまな施策を打ってきました。しかし、今期のアクティブ会員の推移を見てみると、女性購入者、男性購入者ともに伸び悩んでいます。

今までもアクティブ会員が頭打ちになったかと見えた時期はありましたが、そのたびにツケ払いなどの施策によってアクティブ会員は増加し続けてきました。しかし、今回の事態はZOZOSUITやZOZOARIGATOといった施策を次々に出したにもかかわらず、アクティブ会員は伸びませんでした。このような状況で、前澤前社長が下した決断こそ、「Zホールディングスと手を組む」だったのです。

前澤前社長は、退任会見の中において、「ZOZO社としてはこれからさらなる成長という意味で課題を迎えている。ファッションにあまり興味がないような今まで出会うことのなかったお客様にも使ってもらうというようなところが課題となっています」(https://dot.asahi.com/dot/2019091200079.html?page=6)と述べています。

ZOZOのアクティブ会員は「都心部在住の30代女性」


https://d31ex0fa3i203z.cloudfront.net/wp/ja/wp-content/uploads/2020/01/jp_2020_3Q.pdf

ZOZOのアクティブ会員の状況は、女性が68%、男性が32%。地域分布は関東が40.8%で4割を超えています。年齢層は女性が33.9歳、男性が31.7歳です。ちなみに、このZOZOの顧客データと日本の人口の比率と比較してみると、明らかにZOZOの顧客は都市圏に集中していることがわかります。

つまり、ZOZOの主要な顧客は、「30代の都心部に住む女性」であり、都心部以外においては、顧客を獲得できていません。ZOZOは近年マス層に向けた商品をPBで展開しようとしていました。結果、徐々にマスに落ちていく動き自体はみられましたが、ZOZOが想定していたほどには上手く浸透しませんでした。

広告費をかけられるZホールディングスと手を組むのは合理的

そこで、ZホールディングスによるZOZOの子会社化です。マス層を獲得するためには大規模な販促費が必要だとすると、この子会社化は非常に有効です。例えば、Zホールディングスがスーパーアプリに育てようとしているPayPayですが、マス層に対して新しいQRコード決済という文化を根付かせるために多額の販促費を掛けています。


https://about.yahoo.co.jp/ir/jp/archives/filings/

上図がPayPayの2019年の3月の要約財務諸表ですが、売上が5億9500万円であるのに対し、販管費は371億5700万円もかけています。「100億円あげちゃうキャンペーン」などの影響ですが、ZOZOの販管費のうち、販促費用が87億円であることを考えれば、いかに巨額であるかわかります。このように広告費で比較した場合、ZOZOが今後マス層に向けてZOZOTOWNを浸透させようとする際には、広告費をさらにかけるしかありません。そう考えれば、Zホールディングスの子会社になるという決断は、重要な一手です。では、ZOZOがどのようにマス層を獲得しようとしているかの新戦略を見てみます。


https://d31ex0fa3i203z.cloudfront.net/wp/ja/wp-content/uploads/2020/01/J_1031_CEO.pdf

最も大きな戦略はPayPayモールへの出店です。Zホールディングスが親会社となったことで、モールとZOZOTOWNでの販売において収益性は大きく変わらない契約になっているようです。


https://d31ex0fa3i203z.cloudfront.net/wp/ja/wp-content/uploads/2020/01/J_1031_CEO.pdf

そして、そのPayPayモールとZOZOTOWNでは当然ながら棲み分けを行います。ZOZOTOWNはファッション感度が高い層を再び狙う戦略です。直近のZOZOTOWNはマス層への拡大を狙っていましたが、ことごとく失敗していました。顧客データを見る限り都心部のファッション感度が高い層が顧客の中心であることには変わりはありません。つまり、ファッション感度が高い層はZOZOTOWN 、そして、取り切れなかった層はPayPayが新たに宣伝費をかけて集客する戦略なのです。これは、実に理にかなっています。


https://d31ex0fa3i203z.cloudfront.net/wp/ja/wp-content/uploads/2020/01/J_1031_CEO.pdf

実際、スタート時点においては、注文客の6割程度が新規の顧客になっています。この新規獲得の勢いがどこまで続くのかは注視しておく必要はありますが、PayPayが今後も広告費を掛けて顧客を獲得し続けていくだろうこと、Zホールディングスという幅広い顧客を持つ、大きな企業の下での新しい戦略を取れるということを考慮すると、ZOZOが今まで取ろうとしても取れなかった層が、Zホールディングスの子会社化によって実現できる可能性は大きく高まったといえるでしょう。

ZOZOは子会社化によって、再びアクティブ会員を増やし、成長軌道に乗ることができるのでしょうか。今後のZOZOの業績の推移を、注目していきたいと思います。