3万円台で買えるビジネスシューズの金字塔「神匠」は高コスパ靴だ!

神匠(しんしょう)は、台湾の靴メーカーが立ち上げた日本法人「Kamioka」のオリジナルブランドです。靴そのものの生産はラオスで行われています。工賃を下げつつも高品質なレザーを用いたコスパの高い靴、というのがウリです。購入して4年が経過しましたので、エイジングも合わせてご報告いたします。

デザイン

神匠の製品は基本的にドレスシューズ、つまりスーツに合わせる革靴です。そのため無駄のない細みのデザインとなっています。全体のフォルムを見ていただきたいのですが、トゥ(つま先)もカカトも細く作られています。トゥが太く・丸くなればなるほどカジュアルに傾いていきます。

REDWINGなどのワークブーツを想像していただければわかりやすいと思います。反対に細ければドレスに寄っていくのですが、あまりに細く長いトゥは「わざとらしさ」「コスプレ」と感じさせますので、スーツに合わせるべきではありません。

神匠RE08は英国の紳士靴をモデルとして作られていると思われます。トゥは細く、ノーズは短い。ノーズとは靴の先端部分のことを指しますが、履きジワから先端までの長さを見ていただくとわかりやすいかと思います。エドワードグリーンなどに代表される英国靴はここが短いのが特徴です。

現代のカジュアル用の革靴は「やや丸く、やや長い」くらいの中庸的なデザインが主流です。したがって、このRE08をカジュアル用に使うことは「仕事用の靴を履いてきたの?」と思われる可能性が高く、オススメできません。私もあくまでスーツスタイルに合わせるもの、と割り切っています。

このRE08は「クォーターブローグ」と呼ばれるデザインです。革靴のデザインには名前がついています。ストレートチップ、プレーントゥ、フルブローグなど。これらは飾りや切り替えの有無で決まり、またそのデザインの度合いはドレス度にも影響します。

http://ur0.work/Laop

こちらが同じ神匠の靴のストレートチップ。甲の部分にシンプルな切り替えがあるのみで、RE08のような穴飾りがありません。このストレートチップが基本的に最もドレス度が高いとされ、ビジネスはもちろん、結婚式でも大丈夫です。

http://ur0.work/Laoq

こちらはウイングチップと呼ばれるもの。羽根のような「W」型の切り替えデザインと穴飾りがあります。カジュアル度が増してくるのですが、これぐらいであればビジネスの場面では問題ないとされることが多いようです。色は黒が最もフォーマル。まあ、フォーマルシーンでは黒以外は使いませんが……。色が薄くなるにつれてカジュアルになっていきます。

こちらは私物のトリッカーズ。フルブローグと呼ばれるものです。穴飾りが多く、色も明るい茶色、トゥも丸っこい。ひとくちに「革靴」と言ってもこちらはかなりカジュアルなものです。スーツには合わせられませんね。

話を戻しましてRE08のクォーターブローグ。ブローグとは穴飾りのことなのですが、この穴飾りがつま先にも施されていれば「セミ」ブローグ。切り替え部分のみであれば「クォーター」ブローグとなります。

http://ur0.work/LaoB

わずかな差のようですが、靴においてつま先は最も目立つ部分です。大事な場面ではぜひ意識してみてください。言うまでもなく、つま先に穴飾りのないクォーターブローグの方がフォーマルです。

筆者が購入前にこのRE08を気に入った点として、「アデレイド」というデザインが用いられているから、というのがあります。上のセミブローグの写真と見比べてみると、シューレース(靴ひも)周りの穴飾りがちょっと違うのがわかるでしょうか。

RE08はシューレースをぐるっと囲うように飾りが施されています。これを「アデレイド」「琴型」と呼んだりします。

切り替えが上に流れるので、この部分の革が分断されず、革質の美しさを堪能できます。フォーマル度などに影響することではないので、このあたりは完全に「趣味」の領域ですね。

先端部の次はカカトを見ていきましょう。後ろから見ると、このようにカカトの形に合わせて丸く作られています。

横から見ても、カカトを包み込むように作られています。一概には言えませんが、手間と技術の必要な作りですので、カカトを見れば「それなりに本格的な靴」であると判断することができます。さらにこだわった靴ですと、この「丸み」がソール=靴底まで続くような、つまり逆台形の形になっていたりします。

さすがに神匠は、紳士靴の中では高価格帯とは言えませんので、ソールは真っすぐな作りとなっています。ちなみにこの「カカトを包み込む」作り、さぞ歩きやすいのでしょう?と思われるかもしれませんが……私はむしろ逆でした。

ジャストサイズで履いても、革の硬いうちは足の屈曲に靴が付いてきませんので、どうしてもズレがでます。そしてこの内側に沿ったカカトの上部が、ちょうどアキレス腱あたりを痛めつけてきます。履きならしのうちはかなり泣かされましたね……。今でも、あまり長く歩くとやられます。

カカト側の穴飾りはこんな感じです。装飾のないストレートチップならば単に革の切り替えになっている部分に装飾が施されています。

インソール(中敷き)には「神匠」の字が。

黒い部分も茶色の部分も、全てレザーです。グッドイヤーウェルト製法の靴は、この下にコルクが詰めてありますので、履いていくうちに沈んで自分の足の形になっていきます。

ソール(靴底)はこのように、ほぼ全面がレザー、カカトの黒い部分だけがゴムとなっています。ハーフソールなどは何も貼っていませんので、そのまま削れていますね。レザーソール(革底)は通気性と屈曲性、つまり足なじみに優れています。

また歩くときの「コツコツ」という音はレザーソールならでは。弱点は水に弱い、デパートのような床で滑る、摩耗が早いことなどがあります。ちなみに筆者は雪国に住んでいますが、このまま雪道も履いています。まあ冗談じゃないくらい滑ります……。

車移動や室内で過ごすことが多いとわかっている日に限定されます。そしてソールを見るとよくわかるのが、この靴が「内振り」であるということ。親指側はまっすぐで、小指側が内側に向かって斜めに切れ込んできています。小ぶりでありながらも足にフィットする作りです。

革質と製法、サイズ感について

神匠の靴にはフランスの「アノネイ」社のカーフが使われています。アノネイはタンナー、簡単に言うと動物の原皮から製品用のレザーに加工して卸している会社です。高級皮革の代表として世界的にも有名です。非常にキメが細かい。

1万円くらいで売られている革靴はパッと見キレイに見えますが、あれは革の上にコーティングを施しているからです。キメの粗い革でもコーティングで覆ってしまえばわかりませんので。ただし履いているうちにコーティングが割れたりはがれてきたりするため、キレイな状態を保つことができません。

対して「高級」とされるレザーは、そのものの質感を活かすためコーティングなどは施されないのが普通です。例外もありますが。そういったレザーは、汚れを落とし、栄養分を入れ、磨き上げることでキレイな状態に戻すことができます。さらには「履きこむ」ことでその魅力はさらに増していきます。

美しいエイジングを楽しむためには、質の良いレザーが使われていることが必須条件なのです。購入から4年以上経過しましたが、あまり「エイジング!」という感じはしませんね。スーツの時にしか履きませんし、シューツリーも毎回入れているので、ワークブーツのようなクタッとしたエイジングにはそもそもならないのですが。

購入当初よりレザー表面が滑らかになり、クリームが入りやすくツヤが出るようになりました。大きなダメージもなく、これからも活躍してくれそうです。革質を、以前記事にしたオールデンと比べてみましょう。

「オールデン」カーフのVチップを7000字本気レビュー!

2017.12.30

こちらがオールデン。ちょっと手入れをサボっていたためかなり乾燥しています……。

こちらが神匠。オールデンはつま先にだけワックスを乗せてある=コーティングのような状態です。神匠はワックスを落としてからクリームで磨いた状態。ワックス無しでもこれだけツヤがあります。10万円のオールデンと、3万円台の神匠……。

後日オールデンも同じように磨きましたが、正直なところ、筆者は神匠の方が革質が良いと感じました。革質も含め粗野なオールデンと、しっとりと上品な神匠。もちろん好みもありますし、革質だけで革靴の価値が決まるわけではありませんが、こういう比較も革靴の楽しみ方の一つかなと思います。

神匠の靴は「グッドイヤーウェルト製法」にこだわっているそうです。グッドイヤーウェルト製法を簡単に説明すると、「それまでは手縫いしかなかった靴の製造を、一部機械化することで大量生産が可能になり、堅牢で水に強く、また何度でもソール(靴底)の交換を可能とした製法」といったところでしょうか。

グッドイヤーウェルトが最高!なんてことはありませんが、丈夫さや防水性は感じます。そして「靴底を何度でも交換できる」ということは、当然アッパー(ソールより上)も長持ちしてくれなくては意味がありませんから、それなりの質の革が使われることになります。

グッドイヤーウェルトであれば価格は安くても3万円前後。「革靴には最低3万円はかけてほしい」と、靴について聞かれた際には答えています。それはやはりこの価格帯からは製法がしっかりしてくる=長持ちしますし、革質もそれなりになるので「良い靴を履いているな」と見てもらえます。

靴がキレイか否かを女性は見ていますよ、という話はよく聞きますね。あまり安い靴ですと、前述のレザーの耐久性の話しかり、どんなに頑張っても「キレイな状態」を保つことが難しいのです。

最後にサイズ感についてご説明します。「RE08」は型番、その下の「7」がサイズです。日本サイズでは25㎝となっています。「足のサイズは?」と聞かれたときに、「スニーカーでは27㎝」と答える人も多いかと思いますが、あまりアテになりません。

そのまま27㎝の革靴を履いたら、おそらくブカブカでしょう。スニーカーはやわらかく、靴ひもでの調節も比較的容易なので、大きめのサイズを選んだとしても日常で履くには支障がないことがほとんどでしょう。しかし革靴は硬く、足に合わせて形状が合ってくれるものではないので、きちんとフィットしたものを選ぶことをオススメします。

選びかたのコツは2点。自分の足の実寸(足長)を知る。裸足で白い紙の上に立ち、足の指の最も長い部分の真下に線を引く。カカト側も、一番出っ張ったところからまっすぐおろした場所に線を引く。その線と線の間の長さがあなたの足の実寸です。

革靴はまずこの実寸のサイズから試着を始めてみてください。私の場合は実寸25㎝で神匠も25㎝。ジャストサイズでした。次にちょっとキツイ、当たるなと思ったときは「どこが当たるのか」を確認する。前述のとおり、靴底は履いているうちに「沈み」ます。

これはグッドイヤーウェルト製法に限らず、スニーカーでも同じですよね。そして革靴のレザーは横方向には多少伸びるもの。「横幅が少しキツイ」「羽根がちゃんと閉じない」という場合は、履いていくうちにフィットしてくる可能性があります。もちろん1つ上のサイズも試着して確認しながら、ではありますが。反対に縦方向にはほとんど伸びません。

丈夫なソールやトゥキャップ(つま先に入っている芯)などのパーツがあるためです。つまり、「試着したら指先が当たる」場合は、履きこんでもずっと当たったままである可能性が高いのです。

こんな人におすすめ

神匠、いかがでしたでしょうか。英国靴のようなシンプルなフォルムと頑強な作り。そして3万7800円(税込)と高級靴の入門的な価格帯でありながら、高品質なアノネイのレザーが使われた非常にコスパの高い靴です。

「とりあえずスーツ用の靴は持っているけど、もう少し靴のランクを上げてみたい」「良いと言われているレザーでエイジングを味わってみたい」「いつからインポートの高級紳士靴が欲しいけど、まずはそのステップアップに」といった人にオススメの靴です。

「オンオフ兼用のコスパの高い靴が欲しい」という人にはオススメしません。スーツやジャケパンスタイル用の5年10年使える相棒をお探しならぜひ一度試してみてください。平成30年7月現在、定番モデルを廃盤にし2019年春頃に新作を出すと公式HPでアナウンスされています。

このRE08が欲しい場合はそれまでに購入する必要がありそうです。直営店が減ったり、売れ行きが順調というわけではなさそうですが、このような良い靴を作ってくれるメーカーには残っていてほしいと思います。

三十路

この記事を書いた人

三十路

体重69kg 足の実寸25.5cm 頭囲60cm

37歳、2児の父。 体型に恵まれなくても、仕事や育児に忙しくても、いっしょに「おしゃれでカッコいいパパ」を目指しましょう!